監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
調停や審判、訴訟ではなく、夫婦の話し合い(協議)によって離婚することを、協議離婚といいます。
日本で離婚する夫婦の多くはこの方法を選んでおり、また、離婚の方法の中で最も簡易で手間がかからないものでもあります。
ただし、協議離婚では、重要事項をきちんと決めておかなかったり、決めた内容を公正証書として残しておかなかったりすると、後々トラブルになる可能性もあります。
この記事では、協議離婚をお考えの方に向けて、協議離婚のメリット・デメリット、流れや進め方、決めるべき事項、注意点などを解説していきます。
目次
協議離婚とは
協議離婚とは、夫婦で話し合って財産分与や子供の親権などの条件を決め、離婚することをいいます。
離婚の手段としては、協議、調停、審判、訴訟によるものがありますが、このうち協議離婚は家庭裁判所の関与なく、当事者の話し合いのみで全て決めて、離婚届を提出するというものです(親類が話し合いに参加したり、弁護士が代理人を務めたりすることはあります)。日本で離婚する夫婦の約9割が、この協議離婚によって離婚に至っています。
協議離婚のメリット・デメリット
メリットについて
協議離婚のメリットは、調停などのほかの方法に比べ、手間や時間がかからないことです。
話し合いがスムーズに進めば、短期間ですぐに離婚に至ることが可能です。離婚届を市区町村役場に提出するだけで済みますので、手間もほとんどかかりません。
また、慰謝料や財産分与、養育費などについて、審判や訴訟などになると相場どおりの金額となってしまいますが、協議離婚では、お互いが納得していれば相場に関係なく金額を決めることができます。
デメリットについて
協議離婚のデメリットは、メリットと表裏一体のものとなりますが、話し合いがうまく進まずこじれてしまった場合、時間がかかってしまうことです。調停、審判、訴訟などの手段をとらなければ、いつまで経っても平行線で解決に至らない、ということもあり得ます。
また、財産分与や養育費などの金銭のやり取りについて、家庭裁判所を介さずに当人たちのみで決定するため、約束したとおりに支払われないリスクが高くなる傾向があります。
協議離婚の流れや進め方
離婚を切り出し、合意を得る
協議離婚をするにあたって、まずは相手に離婚を言い出す必要があります。
話を切り出す前からある程度の合意がとれていれば問題ありませんが、話し合いがこじれてしまいそうな場合、相手がDVやモラハラをしてくる可能性がある場合、激しいケンカになってしまうおそれがある場合などは、あらかじめ子供を実家などに預けておいたり、家を出て滞在できる場所(実家やビジネスホテルなど)を用意しておいたりした方がいいでしょう。
また、夫婦ふたりだけでは不安な場合は、お互いの親族や親しい友人など、第三者に同席してもらうことも考慮に入れましょう。
離婚条件についての話し合い
協議離婚として話し合いを進めることになったら、離婚に際しての条件を決めていきます。
決めておくべき内容は、以下のような事項になります。詳しくは、後の項目で解説します。
- 慰謝料
- 財産分与
- 親権
- 養育費
- 面会交流
- 年金分割
これらの条件は離婚後に決めることも可能ですが、「言った」、「言わない」の争いになるなど、トラブルの元となる可能性があります。できる限り、離婚届を出す前にきっちりと決めておくべきだといえます。
なお、未成年の子供がいる場合は離婚届に親権者を記入する欄がありますので、離婚前に必ず決めておく必要があります。
話し合いをメールで済ませることは可能?
協議離婚の話し合いを、メールやLINEなどで済ませることは、不可能ではありません。対面で離婚を切り出すと落ち着いて話ができないことが予測されるような相手ならば、有効な手段でもあるでしょう。
ただし、対面で話すわけではないため、相手に「本気で言ってるわけではないだろう」と受け流されてしまう可能性もあります。こちらは本気で離婚を考えているということが伝わる文面を、工夫して作成する必要があります。
また、離婚を切り出す際のみメールやLINEを用いて、ある程度の合意がとれたら対面での話し合いに移行する、という方法もあります。
離婚協議書の作成
離婚に関する諸々の条件がまとまったら、それを書面にし、「離婚協議書」を作成します。離婚協議書がなければ離婚できないというわけではありませんが、書面がなければ単なる口約束となってしまい、決めたはずの条件が守られないおそれもあります。
また、作成した離婚協議書は、公正証書にしておくことをおすすめします。公正証書は、公証役場で公証人に作成してもらいます。若干の手間や費用がかかりますが、公正証書を作成して「強制執行認諾条項」を入れておけば、相手が慰謝料や養育費の支払いをしなかったとき、強制的に財産を差し押さえることが可能ですし、裁判に発展した際も有力な証拠となります。
離婚届の提出
離婚協議書の作成も終えたら、離婚届を提出します。届出先は、夫婦の本籍地か、夫婦どちらかの居住地の市区町村役場の窓口になります。本籍地以外で提出する場合は、夫婦それぞれの戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)が1通ずつ必要になります。
そのほか、夫婦ふたりの印鑑(離婚届に押印したもの)、パスポートや免許証などの本人と証明できるもののほか、マイナンバーカードや国民健康保険証が必要になる場合もあります。離婚の条件によって要不要が変わりますので、あらかじめ提出する予定の役場に問い合わせておくと安心です。
協議離婚の証人になれる人
調停、審判、訴訟による離婚ではなく、協議離婚の場合は、離婚届に証人の署名と押印が必要になります。
証人は、未成年ではなく成人している人であれば、誰でもかまいません。証人の名前が戸籍に残ることもないので,離婚の事実を知られても構わない人であれば,誰でもいいのです。親や兄弟姉妹などに頼んでもいいですし、友人,職場の同僚等でも可能です。また、日本に国籍がない、外国籍の人でも証人となれます。
証人となってくれる人が見つからない場合、料金はかかりますが、離婚の際の証人代行サービスなどもあります。また、離婚に関して弁護士に依頼している場合は、その弁護士に証人となってもらうことももちろん可能です。
協議離婚で決めておいた方がいいこと
協議離婚において必ず決めなければならないことは、子供がいる場合に親権をどちらが持つかということのみです。子供がいなければ、そのほかのことは決めていなくとも、離婚届を提出することは可能です。
しかし、重要なことについて決めておかなければ、後々、トラブルに発展する可能性が大きくなってしまいます。
以下で、協議離婚の際に決めておくべきことを解説します。
財産分与
財産分与とは、結婚期間中に夫婦が共同で築いた「共有財産」を、離婚する際、夫婦それぞれで分けることをいいます。
例えば、預貯金だけではなく、結婚後に購入した不動産や車、美術品なども財産分与の対象になります。なお、夫婦のどちらかのみが働いており、どちらかは専業主婦・主夫という場合でも、働いたことで得た収入は共有財産となります。夫婦共働きの場合でも,働いたことで得た収入は同じく共有財産となります。
協議離婚の際は、そもそも財産分与を行うのか、行うとしたら、どちらがどの財産を受け取るのかといったことを決める必要があります。
ただし、共有財産であるにもかかわらず、相手がその財産を隠して開示しないということもあり得ます。正しく財産分与を行うには、事前にどれくらいの共有財産があるかを調べておく必要があります。
年金分割
特に熟年離婚の場合に重要になってくるのが、年金分割についてです。
夫婦のどちらかのみが働いて年金保険料を納めていた場合でも、専業主婦・主夫であった配偶者もその支払いに貢献したと考えられ、納めた年金保険料は共有財産とみなされます。この考えに基づき、離婚後、専業主婦・主夫をしていた側も、配偶者の年金を分割して受け取れるようにしたのが、年金分割制度です。
ただし、対象になるのは結婚期間中に収めた厚生年金のみであることにご注意ください。
年金分割については煩雑な手続が必要となることもありますので、ご不明な点があれば弁護士にご相談ください。
子供がいる場合
親権
親権とは、子供のために、養育や監護を行ったり、子供の財産を管理したりする権利であり、同時に義務でもあります。親権は、子供の利益のために行使しなければならないとされています。
離婚届には親権者を記入する欄がありますので、ほかの事項と違い、子供がいる場合は必ず夫婦のどちらが親権を持つか決めてから離婚届を提出する必要があります。
また、親権については揉めやすい事項であり、協議離婚がまとまらない原因ともなり得ます。親権が争いの種になりそうでしたら、お早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
養育費
養育費とは、子供を引き取らなかった側の親が、引き取った側の親に支払う、子供の生活や教育などのために必要な費用のことです。たとえ離婚しても親子関係がなくなるわけではありませんので、子供を引き取らなかった側の親も、養育費を支払う義務があります。
調停や審判、訴訟で離婚する場合は、双方の親の収入などを鑑みて、裁判所が公表している「養育費算定表」が相場として参考にされますが、協議離婚においては、双方の合意があれば、相場以上、相場以下に設定することも可能です。
面会交流
面会交流とは、子供を引き取らなかった側の親が、子供と面会することをいいます。
頻度や日時、場所、連絡の取り方、子供の学校行事や習い事の発表会への参加の可否、プレゼントやお小遣いを渡すことの可否などを決めます。
親権と同じく、面会交流についても揉めやすい事項となっています。特に、離婚の理由がDVや不貞行為(不倫・浮気)である場合は、親権を持つ側は、相手に子供を会わせたくないと思うでしょう。話し合いが進まず合意に至ることができなそうな場合は、こちらも弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
離婚慰謝料は請求できるのか
離婚の際に支払われる慰謝料とは、離婚の原因を作った側が“有責”であるとして、もう一方が受けた精神的苦痛に対して支払う金銭のことをいいます。
例えば、離婚の原因が、不貞行為(不倫・浮気)、DV・モラハラ、悪意の遺棄(配偶者が専業主婦・主夫であるのに生活費を渡さない、理由もなく別居する、専業主婦・主夫であるのに家事をしない、健康であるのに働かないなど)だった場合、慰謝料を請求できます。
離婚の際の慰謝料は、その原因によってある程度の相場が決まっていますが、こちらも、協議離婚の場合は相場どおりにする必要はなく、双方が納得していれば、相場以上、相場以下の金額にすることも可能です。
ただし、「性格の不一致」など、どちらか一方に責任があるわけではない理由で離婚する場合、慰謝料の請求はできません。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
協議離婚にかかる期間
協議離婚にかかる期間は、完全にケースバイケースです。
極端な話となりますが、条件に関して揉めることがまったくなければ、話し合いの翌日に離婚届を提出することも可能です。
しかし、離婚に際しては、よく考えて決めておいた方がいい事項が多くありますし、離婚協議書を公正証書として残しておくべきでもあります。一般的には、協議離婚の場合、数ヶ月で離婚に至るケースが多くなっています。一方で、話し合いがまとまらなければ、一年以上かかっても離婚に至れないというケースもあります。
協議離婚で成立しない場合
協議離婚によって離婚しようとしても、そもそも相手に離婚する気がない、相手が話し合いに応じようとしない、条件に関する話し合いで揉めていくら時間をかけても一向に意見がまとまらないなど、協議離婚の成立が見込めないケースもあります。
そのような場合に取るべき対応を、以下で解説します。
別居する
協議離婚が進まない場合、別居は有効な手段のひとつです。
お互いに喧嘩腰になってしまい話し合いができない状態ならば、一旦離れることで冷静になり、頭を冷やことができますし、冷静になったことで離婚自体を考え直すというケースもあります。
一方、相手が離婚に同意しないときは、別居をしてそれを継続することで「婚姻関係が破たんしている」とみなされ、調停を申し立てれば離婚が認められる可能性があります。ただし、この場合に必要な別居年数はケースバイケースなうえ、財産分与に影響したり、収入によっては婚姻費用の請求も行ったりしなければなりませんので、離婚を前提とした別居をする際は弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
離婚調停へ
協議離婚によってはどうしても離婚に至れない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。
離婚調停では、調停委員が仲介役として夫婦それぞれから話を聞き、意見の調整を図り、離婚における財産分与や親権、養育費などの条件を決めることを目指します。
夫婦が顔を合わせないように配慮されているので、協議離婚の成立を目指して話し合いをしていたものの、相手との関係が悪化してしまった場合などは、有効な手段となり得るでしょう。
お互いの意見がまとまれば、法的な効力を持つ調停調書が作成されます。
調停でも意見がまとまらなかった場合は、調停は不成立となり,審判に移行するか,訴訟を新たに提起することになりますで。
夫婦だけでのやりとりとなる協議離婚は難航する場合が多くあります。不安なことがあれば弁護士に依頼しましょう
離婚をしたいとお考えでも、調停や訴訟など大事にはしたくない、話し合いによる協議離婚で済ませたいとお思いの方は多くいらっしゃいます。
しかし、お互いが条件を譲らず話し合いがいつまで経ってもまとまらなかったり、そもそも相手が話し合いに応じなかったりというケースも多々あります。早い段階で意見がまとまれば手間と時間がかからないことが協議離婚のメリットですが、話し合いが進まなければ、泥沼化してしまい、長期間に及んでしまう可能性もあります。
弁護士にご依頼いただければ、話し合いに応じようとしない相手を席につかせることも可能です。法律の専門家であり交渉のプロである弁護士が、ご依頼者さまの負担を軽減するため相手方との話し合いを代行、あるいは同席し、ご希望する条件を実現できるよう、最大限に尽力いたします。また、協議離婚による離婚が困難であれば、調停を申し立てる手続も承り、同席もいたします。
弁護士法人ALGには、多くの離婚案件を取りあつかった実績があり、経験豊富な弁護士が多数在籍しております。協議離婚をお考えであれば、ぜひ弊所まで、お気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)