監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
配偶者と離婚をするにあたって、様々な理由から慰謝料を請求したいと考える方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。どのような場合に離婚慰謝料が認められるか、どのような証拠を準備する必要があるか、離婚慰謝料を請求するにはどのような方法があるかをそれぞれ確認していきましょう。事前の準備は何よりも重要です。
目次
離婚慰謝料を請求できる条件
離婚慰謝料とは、離婚する原因を作った人(不法行為者)の行為により、離婚することによって受ける精神的苦痛(苦しみ・辛さなど)という損害を補填する不法行為に基づく損害賠償になります。すなわち、離婚するすべての夫婦の間で離婚慰謝料のやり取りがなされるわけではありません。
離婚慰謝料を請求できる代表的な例としては、不貞行為(浮気)や性交渉を拒否された場合(セックスレス)が挙げられます。
性格の不一致でも慰謝料請求は可能?
お互いの意見があわないという「性格の不一致」を理由として離婚する夫婦は多くいらっしゃいます。ただ、性格の不一致の場合には慰謝料を請求することは非常に難しいのです。 性格の不一致は、相手方の性格を受け容れることができないこと、になります。性格を受け容れられないというのは、どちらかのみが悪いということは稀であり、不法行為者が存在しない、すなわち損害を被った人間がいないことが圧倒的に多いのです。
離婚慰謝料を請求する前にすべきこと
離婚慰謝料はいつでもどのような状況であっても支払わせることができる、というものではありません。離婚慰謝料を請求するにあたって、どのようなことを確認しておくべきかみていきましょう。
時効が成立していないかを確認する
離婚慰謝料は先ほどお伝えしたように不法行為に基づく損害賠償であり、時効(請求期限)が存在します。時効が始まるのは、以下のとおりです。
①損害及び加害者を知ったときから3年間
②不法行為時(不貞時)から20年間
不貞を行うなどして離婚の原因を作り出した配偶者に対して離婚慰謝料を請求するときには、離婚をした日から3年経過すると時効を迎え、請求しても時効により請求権が消滅しているといわれてしまいます。
請求に必要な証拠を集める
不貞行為の証拠としては、メール、LINE、SMS、探偵等による追跡調査の報告書が挙げられます。
モラハラ・DVの証拠としては、診断書、物理的に傷つけられたのであればその写真、モラハラの録音やメール・LINE等のやり取り、警察署への相談記録が挙げられます。
悪意の遺棄の証拠としては、一方的に相手方が出て行ったことが分かるようなメール・LINE等のやり取り、別居していることが分かる住民票等、生活費が支払われなくなったことが分かる通帳等が挙げられます。
離婚慰謝料の相場を把握する
離婚原因 | 慰謝料の相場 |
---|---|
浮気・不貞行為 | 50万~300万円 |
悪意の遺棄 | 100万~300万円 |
DV・モラハラ | 50万~300万円 |
セックスレス | 50万~100万円 |
よく、離婚慰謝料の相場はいくらとなるのかとのご相談を受けます。離婚問題は夫婦ごとに千差万別であり、例えば不貞期間がどれくらいであるのか、家族構成はどうなっているのか、DV被害の程度はどれくらいであるのか、など様々な要素を考慮した上で離婚慰謝料は定まるもので、必ずこの金額、というのは難しいのですが、おおむねこの表程度ではないかと考えられています。
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離婚慰謝料を請求する方法
当事者同士での直接の協議では話が進まない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てて、調停委員会の介入を受けて離婚に関する話し合いを進めていきます。調停でも離婚に関する話し合いが進まない場合には、訴訟を行っていくことになります。詳しくは以下で解説します。
離婚後に慰謝料を請求する場合には、交渉を行うか裁判上の請求を行うかのいずれかになります。
話し合いによる協議離婚で請求
まず離婚するかどうか、するとして離婚慰謝料を含めた条件をどうするかを、2人で協議します。DV被害に遭っているなどして相手方と直接協議することが難しい場合には、協議せずに調停を申し立てるべきでしょう。お互いが合意できるのであれば、相場以上の慰謝料であっても問題ありません。
離婚協議書の作成
離婚慰謝料を含めて離婚に関する合意ができた場合、「離婚慰謝料」として支払う、と明記する形もしくは財産分与等を含めたうえで「解決金」として支払う、との形のいずれかで記載することになります。前者であれば、離婚慰謝料としていくらなのか、財産分与としていくらなのかが明確になります。
どちらの記載方法をとるとしても、いつまでに支払うのか、いくら支払うのか、一括で支払うのか分割で支払うのか、振り込みの場合には振込手数料をどちらが負担するのかが明確になるように記載しましょう。
話し合いで決まらない場合は離婚調停で請求
当事者同士で話し合いを継続したとしても平行線になり、話合いが進まなくなることもあります。そのような場合に当事者同士での話し合いを続けても終わりは見えないことになります。そのようなときには、家庭裁判所に離婚調停を申し立てましょう。
家庭裁判所では当事者の間に調停委員が介入し、それぞれが譲歩して着地点を見つけるための話し合いがなされます。第三者から説得をしてもらうことにより、当事者同士ではたどり着くことのできなかった終着点に行き着くことができるケースが多くあります。
それでも解決しなければ離婚裁判へ
調停でも当事者が合意できない場合には、離婚調停は不成立となります。そうなると離婚をして離婚慰謝料を請求していくには、離婚訴訟を提起する必要があります。
訴訟は、裁判官が双方の主張と客観的な証拠から判断を下すものになります。つまり、主張の根拠となるような証拠の提出が必要となります。上で説明したような探偵の証拠、メールや写真などは紛失してしまうことのないよう、解決するまで保存しておくことが重要です。
内容証明郵便での請求について
口頭でのやり取りではなく、内容証明郵便を送付して慰謝料を請求することもあります。
内容証明郵便を用いる場合のメリットとしては、その書面に記載した内容を郵便局が証明してくれること、内容証明郵便を受領した人が心理的に圧迫を感じて支払いに応じる可能性があることにあるでしょう。
他方、内容証明郵便はその作成書式があり、またその書面以外の写真等を同封することはできないという制約があります。また、心理的に圧迫を与えすぎた結果、内容証明郵便を受領した人が却って敵対心を増強させてしまうという危険性もあるので注意が必要です。
内容証明郵便に記載する内容
内容証明郵便に記載すべき内容としては、慰謝料を請求することとした理由(不貞やDVなど)、請求する金額、支払期限、支払方法となります。
相手への怒りをありのまま記載した結果、相手を侮辱したりしてしまうような内容を記載すると、名誉毀損などを訴えられて却ってあなたの立場を危うくさせてしまう可能性もあるので、あくまで冷静に、必要十分な内容を記載するように注意してください。
相手が離婚慰謝料を支払わないときの対処法
相手が調停で合意した内容や判決の内容に基づいた離婚慰謝料を支払わないことも多々あります。そのような場合には、給与や預貯金の差し押さえなど、強制執行の手続きに移行することを積極的に考えましょう。
その他、合意した内容や判決の内容を一括で支払うことは難しいけれど、分割であれば支払うとの提案を相手から受けることもあるでしょう。分割で確実に支払われるなら強制執行の手間を取る必要もないと考えられるのであれば、分割で支払う旨の合意を相手方との間で行うことも解決への一つの手段となるでしょう。
よくある質問
子供がいた場合、離婚慰謝料の相場より多く請求することはできますか?
お子さんがいることを理由として、離婚慰謝料を少しでも高くしたいと考える方が多くいらっしゃいます。裁判例からみられる傾向としては、金銭的に自立のできていないお子さんがいらっしゃる場合には、離婚慰謝料を増額させる要素として考慮しているケースが多くあります。また、お子さんの数も離婚慰謝料に影響すると考えられており、お子さんの数が多い方が離婚慰謝料も多くなりやすいと考えられます。
不倫の慰謝料は離婚しないと配偶者に請求できませんか?
配偶者が不倫したとしても、お子さんのためなど色々な事情から離婚せずに生活していく夫婦もいらっしゃいます。不貞されたことによる慰謝料は、離婚をしなくても請求はできるものです。
ですが、離婚をする場合と比べて慰謝料が低くなりやすいのが現実です。夫婦生活をやり直していくという事実がある以上、完全に破綻してしまい離婚するしかない夫婦に比べれば慰謝料は低く認定される傾向にあります。
モラハラを理由に離婚した場合、慰謝料の相場より高く請求する方法はありますか?
モラハラを理由として慰謝料を請求する際、少しでも高く慰謝料を請求していくための要素としては以下の内容が挙げられます。
- モラハラの回数が多い、程度が酷い、期間が長い等
- モラハラを受けたことにより精神的疾患を負うこととなった
- モラハラを受けた側の財産が少ない
- 子どもがいる、いるときにその人数が多い
これらの事情を証明できるような資料がないか、改めて確認しましょう。
離婚の慰謝料請求の時効が迫っているのですが、時効を止める方法はありますか?
①相手に離婚慰謝料請求の原因となった事実を認めさせる
この方法が取れるのであれば、時効はゼロからスタートすることになります。これを時効の更新といいます。
①については請求する立場としては非常に簡単な手続ですが、相手がまず認めるかどうかというハードルがあります。また、認めるとしても口頭で認めさせるだけではなく、文書化するなどして証拠に残る形で認めさせましょう。
②内容証明郵便を送付する
この方法を取れば、時効の完成は6か月間猶予されます。証拠が揃いきっていない中でも取ることのできる手段となるので、大きなハードルがあるわけではありません。ただ、この猶予されている6か月の間に訴訟を提起しなければ意味がなくなってしまうため、素早く準備したうえで訴訟を提起することが必要です。
③裁判上の請求を行う
既にお手元に証拠が揃っている場合には、すぐにでも訴訟提起もしくは民事調停申立てのために動き出すこととするのが適切でしょう。
離婚時の慰謝料請求についてわからないことがあれば弁護士に相談しましょう。
以上、離婚をする際の慰謝料請求について解説いたしました。ここでご説明したのは一般論としてとなります。ご夫婦の状況により、離婚慰謝料の内容は千差万別となります。弁護士は様々な経験・裁判例に関する知識を有しており、各ご相談者様の場合にどういう手段を取るべきか、準備すべきことは何なのか、結末はどうなりそうかなど見通しをご説明できますので、一度弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)