採用面接で、精神疾患の既往歴を質問するポイント

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

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精神疾患の既往歴などは、採用にあたって、確認しておきたい事項ではあるが、そもそも聞いていい質問なのか悩んでしまうとおもいます。質問していいのか、質問するとして注意すべきポイントはどこかについて説明します。

採用面接で、精神疾患の既往歴を質問するポイントとは?

そもそも精神疾患の既往歴について質問して良いのか?

信仰や思想を理由とした不採用が争われた有名な事件として、三菱樹脂事件(最大判昭48年12月12日民集27巻11号1536頁)があります。
事件の概要は、採用試験の際に、学生運動などに参加していたことを秘匿していたところ、会社側の調査で虚偽の申告が判明し、結果として使用期間終了直前に本採用を拒否されたというものです。
この事件において最高裁判所は次のように述べました。
「憲法22条、29条などにおいて広く認められている経済活動の自由を根拠に、法律その他による特別の制限がない限り、原則として、雇用者には採用の自由が保障されており、思想、信条を理由として採用を拒否したとしても、当然に違法となるとはいえない」 また、裁判所は、雇用者側が雇用の自由を有し、思想、信条を理由として採用を拒否しても違法ではない以上、労働者の採否決定にあたって、思想、信条を調査し、そのために関連する事項についての申告を求めることもまた、違法ではないとしています。
しかしながら現在は、個人情報保護の観点などから、思想、信条などの個人情報の収集に対する規制がなされていること、厚生労働省は、公正な採用選考のために、採用にあたって、本来自由であるべき事項については調査しないようにすることが重要であるとの指針を公表しているなどから上記の判断が無条件に妥当するとは限りません。
とはいえ、精神疾患の既往歴という事項は思想、信条とは異なり、業務遂行に密接に関連しる可能性が高い事項といえますので、必要な範囲で相当な質問等を行うことは許容されると考えられます。

既往歴は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当

取得には原則として本人の同意が必要

平成29年5月30日に施行された個人情報の保護に関する法律(2条3項)により、機微な個人情報の定義を明確にしたうえで、新たに「要配慮個人情報」という区分が設けられ、「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」と定められています。
従業員の個人情報を取扱う事業者も、個人情報保護法の規定にそった個人情報の適切な管理が求められることになり、要配慮個人情報を取得する場合には、原則として、本人の事前同意を得る必要があるとされています。

なぜ精神疾患や既往歴について把握しておくべきなのか?

会社の安全配慮義務違反を回避

会社は、労働契約法や労働安全衛生法によって、雇用する従業員に対し、安全配慮義務を負っています。これは、労働者がけがや病気をしないように、快適な職場環境が保たれるよう最善の努力を求めるものです。
精神疾患や既往歴がある従業員に対しては、より配慮が必要な場合も多いため、会社が予め従業員の既往歴等を把握しておくことは重要といえます。

業務遂行に支障が出る可能性

精神疾患や既往歴によっては、業務を行うにあたって特別な配慮が必要となる場合もあります。大きな音が苦手な方や、普段は全く問題ないが任意のタイミングで休憩を入れる必要がある場合など、会社が従業員の配置・責任等を決めるにあたって、予め知っている方がスムーズになることが想定されます。

採用面接時に健康診断書を提出させることは可能?

労働全衛生規則43条は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、健康診断を実施することを求めており、健康診断の実施に代えて既往歴を含む項目が記載された健康診断結果を提出させることを認めています。
そのため、採用面接時に、業種や職種に適性があるか否かを判断するためといった必要かつ相当な範囲での、健康診断書を提出させることは可能といえます。

精神疾患の既往歴があることを理由に不採用としても良いか?

精神疾患の既往歴が、職種や業種の適性を欠くと判断される場合には、精神疾患の既往歴があることを理由に不採用としても直ちに違法とはいえません。
例えば、車の運転が必要な業務や、強い音や光にさらされる現場での作業が必要な場合など、当該労働者自身の心身の健康を確保するためであったり、同じ職場で働く他の労働者を危険に巻き込むことを回避するためであったり、合理的な理由がある場合には、精神疾患の既往歴があることを理由に不採用とすることもやむを得ないといえます。

健康状態は書面に記入してもらう方法も

健康状態を書面に記入してもらう方法も考えられます。例えば、アレルギーに関する情報や色覚異常がある場合、てんかんなど発作を起こすおそれがある場合、などは周囲の人が把握しておくことで、未然に防ぐことが可能になったり、もしもの場合に適切な対応ができたりすることもあります。
記入(申告)を求めることで、就業とは無関係な健康に関する情報を取得し、差別につながることになってはいけませんが、情報を共有することで互いによりよい職場環境を構築することまできるため、会社の業種や職場環境を考慮し、必要な範囲で記入を求めるようにしましょう。

精神疾患と採用に関する判例

事件の概要

原告(精神保健福祉士)は被告(医療法人社団)と雇用契約を締結していましたが、採用面接に際して、既往歴や服用薬についての質問にないと虚偽の回答をしたことは、懲戒事由にあたるとして被告から退職を勧告されて退職届を提出して退職した。原告は、退職の意思表示は被告からの強迫によるものであるから、これを取り消すと主張して、雇用契約上の地位の確認を求めるなどした事件絵は以下のように判断しています。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

(東京地裁平成19年(ワ)第1576号 地位確認等請求事件 平成20年4月25日判決)
精神病に罹患していた場合、精神病患者と接触した場合、相互の病状を悪化させる可能性があること、採用された場合は職務上自動車運転を要するところ、抗精神病薬のうちには自動車運転が制限されるものが多いことから、上記の質問をしたものと認められるから、原告の上記対応は、虚偽の告知をしたものであって、被告の就業規則には、「重要な経歴および病歴を偽り採用されたとき」との懲戒解雇事由の定めがあることからすると、上記の点は、解雇事由として考慮されるべき事情に当たるといわざるを得ない。

ポイント・解説

判決では、採用面接時の既往歴や服用薬に関する虚偽の申告があったこと、当該虚偽申告が他の事情と総合考慮すると懲戒事由に該当し得ることを認めています。
本件では、業務上、精神病患者と接触する機会があったことや、車の運転が必要であり服用薬によっては、強い眠気があるため車の運転をさせることは危険であるなど、採用にあたって、精神疾患の既往歴や服用薬を確認すべき必要性および相当性があったことが前提となっていると考えられます。
このように業種・職種・職場環境などを考慮して、必要かつ相当な範囲での、採用時に精神疾患の既往歴等を確認すること自体は必要なことであるといえます。

採用面接における既往歴情報の取得でお悩みなら、人事労務に詳しい弁護士に相談することをおすすめします

採用面接における既往歴情報の取得は必要な場合がある反面、差別につながるおそれもあるため、慎重に判断する必要があります。自身の職種・業種などと照らしながら、必要性・相当性を判断することは困難である場合も多いので、お悩みの方は、専門家にぜひご相談ください。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
大阪弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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