監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
ここでは、有責配偶者と法的に評価された場合、有責配偶者の離婚に向けた立ち回り方、有責配偶者を相手方に離婚をする場合等について説明していきたいと思います。
目次
有責配偶者とは
有責配偶者とは、婚姻関係を破綻させるに至った主だった原因をつくった配偶者(夫からみた妻、妻からみた夫のことをいいます。)のことをいいます。
ここでいう“有責”とは、不法行為が成立する程度に違法であるということですので、離婚が問題となる事例において有責配偶者がいるとは限らないので注意が必要です。
有責配偶者となるケース
有責配偶者となるのは、例えば、異性と肉体関係を持つ不倫、浮気をしたり、DV(ドメスティックバイオレンス)や極度のモラハラをしたりして、悪意の遺棄、つまり、扶養すべき配偶者や子らに連絡等をせずに生活費を支払わずに行方をくらませたりして、平穏な婚姻関係を違法な行為によって破綻させる場合のことをいいます。
有責性を証明するための証拠
配偶者の有責性を証明するための証拠としては、例えば、不貞行為であれば、男女二人でラブホテルに出入りしていた写真、領収証、配偶者からの人格非難に及ぶモラハラがあったことについては、LINEのスクリーンショットや発言の録音(※配偶者の同意を得ないまま録音されたものでも構いません。)、DV・暴力については、暴力直後の医師の診断書等が考えられます。
客観性が高ければ高いほど証拠としての価値が高くなります。単体では証拠としての価値が弱くても、証拠から推測できることを複数組み合わせることで、証拠としての価値が総合的に高まる場合もあります。
有責配偶者からの離婚請求は原則認められていない
有責配偶者からの離婚の請求は、裁判例上原則として認められていません。婚姻関係を自ら違法な行為によって破綻させてしまった側から離婚をして欲しいと請求するのは身勝手極まりなく、信義則に反すると判断されるからです(不倫をした側が“離婚をして欲しい”と請求する事例を想定するとわかりやすいと思います。)。
有責配偶者からの離婚が認められるケース
ただ、有責配偶者からの離婚請求が法的に全く認められていないかというとそういうわけではなく、夫婦間に未成熟子がおらず、別居期間が夫婦として同居生活していた期間と比較して相当長期に及んでおり、離婚によって配偶者が経済的に困窮することがない、というような場合は、例外的に離婚の請求が認められることになります。
勝手な離婚を防ぐには、離婚届の不受理申出制度を利用する
例えば、配偶者の有責性が明らかになったタイミングにおいて、離婚届に署名押印してしまったけれども、その後の離婚協議等を経た後、思い直して一旦離婚の成立は見送った方が有利だと判断したとしましょう。この場合は、離婚届の不受理申出制度を利用して、作成済みの離婚届等が有責配偶者等によって勝手に提出されてしまうことを防ぐようにしてください。離婚条件の協議は、離婚の成立後においても実施可能ですが、一旦離婚が成立した後は、(元)有責配偶者の側が真摯に協議に応じようとしなくなったりするので、離婚それ自体に争いがなかったとしても、注意するようにしましょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
有責性に時効はあるか
有責性それ自体には時効がありませんので、いつまでに請求等を受けなければ有責配偶者の立場が失われる、ということはありません。
ただ、有責性それ自体に時効がなくても、有責性を理由とした損害賠償請求権、例えば、不貞慰謝料請求権等については消滅時効があり、期間経過とともに法的に行使し得なくなるのでご注意ください。
どちらにも有責性がある場合の判断は?
夫婦の双方に有責性があると判断される場合も事例によってはあり得ますが、結局のところは、有責性のある行為の時期の前後、有責性のある各行為がどれだけ婚姻関係の破綻に寄与しているのか等の事実を総合的に考慮して、判断枠組みが決せられることになります。
別居中の婚姻費用について
別居中の有責配偶者の側から、生活費(婚姻費用)を請求されたとしても、有責配偶者の生活費相当部分は、信義則に反するという理由で認められません。
もっとも、信義則に反して認められないのは、生活費(婚姻費用)のうち有責配偶者の生活費相当部分のみですので、有責配偶者と同居する未成熟子の養育費相当部分については支払わなければなりません(子の養育費相当部分は配偶者の有責性に関係がないからです。)。
有責配偶者に慰謝料請求する場合の相場は?
有責配偶者に対して慰謝料を請求する場合、有責配偶者は、有責性を否定する等の対応をすることも多いので、より客観的な証拠をもって請求にのぞむようにしましょう。
配偶者の有責性が証拠等によって認められた場合、次に受けた精神的損害の程度の評価=慰謝料額の評価の問題に移ることになります。
慰謝料請求の金額は、離婚を余儀なくされたのか、有責性の原因となった行為が継続しているか、回数や各行為の悪質性、謝罪行為の有無や有責配偶者の収入等の考慮要素をもって総合的に判断されますが、相場として多い金額例をあげるとすれば、200~300万円といわれています。
有責配偶者との離婚は弁護士に依頼したほうがスムーズにすすみます。
有責配偶者との離婚をする場合、早期の離婚成立を目指すのか、あるいは、有責配偶者からより多額の金銭を受け取れるようにするのか、財産分与を有利にするのか……今後の方針の決定の段階である程度の見通しがたっていなければ、有利・不利の判断もできないままに、場当たり的な対応をしてしまうことになりかねません。
弁護士にご相談頂ければ、ご相談者様の希望を伺い、希望を達成するためのベストな選択肢を提示し、ご決断頂くことが可能になりますし、その後の手続もスムーズに進めることが可能です。お困りのことがあれば、お気軽にお問い合わせのうえ相談してください。
-
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)