親権と監護権|違いや分けた場合のメリット、デメリットについて

離婚問題

親権と監護権|違いや分けた場合のメリット、デメリットについて

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

親権という言葉を聞いたことがある人は多くいると思いますが、監護権という言葉を聞いたことはあるでしょうか。親権と監護権は、子どもを養育するにあたって重要な権利であり、子どもの適切な養育に関しての義務という側面もあります。親権、監護権の内容は正確に理解しておく必要がありますので、以下で詳しく見ていきましょう。

監護権とは

一般的に親権と呼ばれるものは、未成年者の身上監護権と財産管理権をあわせたものをいいます。
そして、監護権とは、この身上監護権のことをいい、身上監護を行う者を監護権者といいます。

身上監護権とは、簡単にいえば未成年者を身体的に監護する権利です。 親権と監護権は、離婚に際して、父母のいずれか一方に帰属させることが通常ですが、特別な事情がある場合には、これらが分けられる場合があります。

親権と監護権の違い

親権は、先述したように、未成年者の身上監護権と財産管理権から構成されています。
親権者は、未成年者の身体上の監護を行い、財産の管理ができるということです。
身上監護権が、親権の一内容となっている以上、原則的には、親権者が未成年者の身上監護を行うことになります。しかし、身上監護は行えるものの、子の財産を管理する者としては不適切であるといった事情から、例外的に親権者と監護権者が分けられることがあります。

身上監護権の内訳

身上監護権は、①身分行為の代理権・同意権、②居所指定権、③懲戒権、④職業許可権に分類されます。

身分行為の代理権・同意権

未成年者が自身の身分行為を行うにあたっては、監護権者が未成年者を代理して行うことが必要です(民法775条、787条、804条)。身分行為は、法律行為の中でも重要なものなので、発達途上の未成年者一人では行えないようになっています。

居所指定権

未成年者は、監護権者の指定する場所を居所としなければなりません(民法821条)。
未成年者が勝手に自分の居所を指定したり、監護権者の指定した場所を変更することはできません。

懲戒権

監護権者は、未成年者を懲戒することができます(民法822条)。
懲戒とは何かについて、法は具体的に記載していません。しかし、これを拡大解釈し、教育のためと称して度を越えた暴力を行うことなどを防止するため、「監護及び教育に必要な範囲内で」という限定が付されています。

職業許可権

未成年者は、監護権者の許可を得なければ職業を行うことはできません(民法823条)。未成年者は身体的にも精神的にも未成熟であるため、子の判断のみで職業に就くことができないようになっています。

親権者と監護権者を分けるメリット・デメリット

親権者と監護権者を分けることには、以下のようなメリットとデメリットがあります。

メリット

離婚に際して親権に争いがある場合、調停・裁判での解決を求めることになります。しかし、親権の争いの場合、解決までに時間を要することが多く、数年単位の時間がかかることも少なくありません。
しかし、親権者と監護権者を分離することによって、一方では親権という法律上の権利を、他方では現に子どもに接していられる権利を持てることになり、双方が離婚に同意しやすくなります。
結果として早期の解決を図ることができる点がメリットといえるでしょう。

デメリット

親権と管理権を分けることにより、監護権者は、未成年者の財産上の権利を行使する際には、その都度親権者の確認をしなければならないなど、財産の管理が煩わしくなるというデメリットがあります。
また、離婚届には監護権者について記載する欄はありません。そのため、親権者と監護権者を分離することについて、他の書面で明記しておかなければ、後々監護権をめぐって争いになる可能性があることもデメリットの一つといえるでしょう。

親権と監護権を分ける手続き

親権者と監護権者を指定するには、大きく分けて二つの手段があります。一つは夫婦間での話し合いで決定する方法、もう一つは裁判所の手続を利用して決定する方法です。夫婦間の話し合いで決定する場合、離婚届には監護者を指定する欄はないので、公正証書など公的な書面として残しておくことが望ましいでしょう。
裁判所の手続、具体的には離婚調停の中で親権者と監護権者を決める方法については、当事者間で合意ができればそこで監護権者は定まります。しかし、合意ができない場合、離婚訴訟を起こし、裁判所に判断を求めることになりますが、裁判所は親権者と監護権者の分離について極めて消極的な態度をとっています。そのため、裁判所の手続を利用する場合に親権と監護権が分けられることは事実上ほとんどありません。監護者を決める手続については下記のページを参照ください。

監護権をとるために必要なこと

監護権者を指定する判断にあたっては、従前の子育ての状況や教育環境等の事情が考慮されます。
そのため、監護権をとるためには、子の身上監護について、子の福祉の観点からみて適切といえる行動を継続的に行っている必要があるといえます。
子育てを積極的に行い、主として子の監護を行ってきたという事実を積み重ねる必要があります。

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監護を怠った場合の罰則

監護権者は、未成年者の身上を監護する権利を有するとともに、未成年者の身上を適切に監護しなければならないという義務を負っていることになります。監護権を有するに至ったものの、監護権者としてなすべき義務を果たさない場合には、保護責任者遺棄罪などに該当する可能性があります。

一度決めた監護権は変更できる?

監護権は、当事者の話し合いで変更することが可能です。
仮に、当事者で監護権者の合意ができない場合には、調停や審判などの裁判所の手続を利用する必要があります。調停とは、簡単にいえば調停委員に間に入ってもらって行う話し合いです。調停は当事者の合意がなければ成立しません。そのため、調停不成立の場合には審判に進み、裁判所に判断を委ねることになります。
これに対し、親権は、当事者の話し合いで変更することはできず、調停や審判の手続を経る必要があります。

監護権に関するQ&A

親権者と監護権者を分けた場合、親権者に養育費を請求することはできますか?

親権者に養育費を請求することは可能です。
親権者は、子どもとともに生活はしていません。しかし、養育費は子どもが生活するために必要な費用であり、子を養育する父母が分担して負う義務です。したがって、監護権者は、親権者に対して、養育費の請求をすることが可能です。

監護権の侵害とはどんなことをいいますか?

婚姻中の父母でいずれか一方が他方の監護権を一方的に奪うなどすることをいいます。
代表的な例として、子どもの連れ去り行為が挙げられます。一方的に子どもが連れ去られてしまった場合には、監護者指定や子の引渡しを求める調停・審判などの手続を早期に利用する必要があります。

祖父母でも監護権を獲得できますか?

原則として、監護権が認められるのは、父母です。
ただし、父母のいずれも未成年者を監護するのが困難といえる状況にあるなど、父母以外を監護権者とすべき特別な事情が存在する場合には、祖父母でも監護権を獲得できる場合はあるといえるでしょう。また、その他の方法として、祖父母が未成年者を養子縁組する方法が考えられます。
この方法では、未成年者が15歳未満の場合には、法定代理人、つまり現時点の親権者の承諾が必要となり(民法797条1項)、親権者の他に監護権者が指定されているときはそれぞれの承諾が必要となること(同条2項)に注意が必要です。

監護権を証明する書類はあるのでしょうか?

離婚をする際、離婚届を作成・提出することになりますが、離婚届には監護権者を指定する欄はありません。そのため、事後的なトラブルを回避するため、親権と監護権を分ける場合には、誰を監護権者とするのかを決めた際に、公正証書を作成しておくことを強くおすすめします。

監護権のみを持っている場合でも児童扶養手当をもらうことができますか?

児童扶養手当は、子どもを養育している者に対して支給される手当です。そのため、所得制限などの一定の条件はありますが、基本的に児童扶養手当の支給を受けられます。

監護権についてわからないことは弁護士にご相談ください

これまで述べてきたように、親権と監護権は通常は父母いずれか一方のみが持つことになります。
逆に言えば、親権と監護権が分けられる事案は、かなり限定されているといっていいでしょう。
このような例外的な方法をとる際には、思いもよらない点に注意を要する場合もあります。そのため、親権・監護権についてご不明な点があるときは、専門家である弁護士にぜひ一度ご相談ください。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
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