監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
熟年離婚とは、法律的に明確な定義があるわけではありませんが、長い年数を共に過ごした夫婦が、歳をとってから、さまざまな要因により離婚することをいいます。 熟年離婚は年々増えており、同居期間が20年以上の夫婦の離婚は、平成20年では離婚した夫婦全体のうち16.5%を占めています(厚生労働省「同居期間別にみた離婚の構成割合の年次推移」より)。
このページでは、熟年離婚の原因や、熟年離婚をする際に必要な準備、慰謝料や財産分与についてなどを解説します。
熟年離婚の原因
熟年離婚に至る原因はさまざまです。2005年にテレビドラマでテーマになったことにより、「熟年離婚」という言葉が一般的に広く認知されて広まったことも、熟年離婚が増えた一因と考えられます。
以下で、熟年離婚の原因として多く見られるものを解説します。
相手の顔を見ることがストレス
熟年離婚の世代では、夫婦共働きが増えている現在とは違い、夫が働いて家族を養い、妻が専業主婦という家族形態が一般的でした。
働いていた夫の定年退職により、夫が家にいるようになり、それまでよりもずっと長い時間を一緒に過ごすことになると、「一緒にいることが苦痛」、「顔を見るだけでストレスだ」と感じてしまうのはよくあることです。それまでのコミュニケーション不足やすれ違いが、長い時間一緒に過ごすようになることで一気に問題化してしまうというパターンです。
価値観の違い、性格の不一致
価値観の違い、性格の不一致による離婚は、夫婦の年代にかかわらず多くあります。
もともと性格の違う男女が家庭を作るのが結婚というものですが、相手の価値観や性格をどうしても受け入れられず、日常的に口論やケンカを繰り返すようになり、信頼関係が破たんしてしまうというのはよくあることです。
新婚の夫婦が「一緒に暮らしてみて初めて相手の本性がわかった」というように性格の不一致を理由に離婚することもありますが、熟年離婚の場合は、夫の定年退職により共に過ごす時間が増えたことが理由だったり、長いこと我慢していたものの、ストレスが蓄積してしまいいよいよ一緒にいることが無理になったと感じたりする、などのケースがあります。
夫婦の会話がない
夫婦の会話がないので離婚したい、というケースも多く見受けられます。
長年過ごすうちに徐々に会話が減っていったという場合もあれば、仕事で忙しくほとんど家庭にいなかった夫が定年退職により家にいるようになり、会話がなかったことに気づいた、という場合もあり得ます。
会話がないのに一緒に過ごさなければならないことが苦痛に感じるということもありますし、会話がないならば結婚している意味がないと感じて離婚に踏み切るケースもあります。
子供の自立
子供の自立をきっかけとした熟年離婚も非常に多くなっています。
それまでは「離婚したいけど、子供のためを思うと両親が揃っていた方がいいから」と我慢していたものの、子供が高校や大学を卒業して就職・自立したことで「子供の面倒を見る必要もなくなったし、もう一緒にいる意味はない、離婚してもいいだろう」、「老後はひとりで気楽に過ごしたい」と決意するのは、妻側でも夫側でも見受けられます。
借金、浪費癖
夫、あるいは妻の借金や浪費癖も、熟年離婚の理由となり得ます。
それまで隠していた借金が発覚したという場合もあれば、相手の浪費癖に耐えていたけれど我慢の限界を迎えた、ということもあるでしょう。子育てや仕事が終わり、第二の人生を迎えるにあたって、多額の借金を作ったり、浪費を繰り返したりする相手ならばもう一緒にいる意味はないと見切りをつけるケースはよく見られます。
介護問題
熟年離婚といわれる世代である40代~60代は、親の介護が問題になる頃合いでもあります。夫の親(義理の両親)の介護を押しつけられた妻が離婚を決意する、あるいは義理の両親の介護を始めたことで疲労やストレスが溜まり結婚を継続することが限界になるというようなケースが多いですが、夫自身・妻自身の介護が必要になり、面倒を見きれないので離婚を考えるというケースもあります。
熟年離婚に必要な準備
離婚するにあたって準備をしっかりするに越したことはなく、熟年離婚でもそれは変わりません。専業主婦であった妻側から離婚を切り出すのであれば、特に計画的な準備が必要です。
以下で、熟年離婚において必要な準備をご解説します。
就職活動を行う
専業主婦(主夫)であった場合は、離婚にあたって、収入の確保が重要となります。
相続した資産があるなど、老後を送るにあたって十分な資金があれば心配はありませんが、貯蓄がない、あるいは熟年離婚といってもまだ働けるという場合は、就職活動を行い、離婚後に安定した生活を送れるよう収入を確保しましょう。
特定の経験があったり、資格を持っていたりすれば専用の求人サイトに登録して応募する、そうでなければハローワークや職業訓練校に通うことが有効です。
味方を作る
周囲の心証を考えるのであれば、味方を作っておくに越したことはありません。離婚して新たなスタートを切るという大きな決意をしたのに、親や子供から強く非難されたり、周囲から「何年も連れ添った相手を見捨てるなんて」というような悪評を立てられたりしたら大きなストレスになってしまいます。
家族や親戚をはじめ、夫婦共通の友人などに、どんな結婚生活を送ってきて、なぜ熟年離婚をする決意をしたのかなど、あらかじめよく話しておき、味方を作っておきましょう。
住居を確保する
現在の住居が相手の名義になっており、離婚時の財産分与で住居の名義変更が見込めない場合などは、新たな住居を確保する必要があります。
まだ親が健在だったり、住居を相続していたりすれば、実家に住むことを考えてもよいでしょう。
新たに賃貸物件を借りる場合は、親族や、子供が成人済ならば子供に保証人になってもらう必要があります。
財産分与について調べる
離婚をするときには、結婚していた期間に夫婦が共同で得た財産を、夫と妻で分割する財産分与を行います。夫が働いて妻が専業主婦という場合でも、妻が家事を行っていたことで夫が働くことができていたとみなされ、夫の収入も財産分与の対象となります。
熟年離婚では、結婚していた期間も長くなるため、その分、財産分与しなければならないものも多くなります。離婚するにあたって、どんなものが財産分与の対象となるのか、自分が得られる財産はどれくらいあるのか、弁護士に相談するなどして調べておきましょう。
専業主婦(専業主夫)の場合は年金分割制度について調べておく
離婚する際に、婚姻期間中の厚生年金を分割して自分のものとすることができるのが、年金分割制度です。対象となるのは、厚生年金の、婚姻期間中に収めた保険料です。例えば夫が28歳の時に結婚し、50歳で離婚する場合、22年分が対象となります。
年金分割制度には、夫婦の合意または裁判により割合が決定される合意分割と、第3号被保険者(会社員や公務員などの配偶者で、年収が130万円未満の者)が請求すれば、2分の1を自分のものとできる3号分割があります。ただし、3号分割は平成20年4月1日以降の婚姻期間のみが対象とされているため、どちらの分割方法がより多く年金を得られるかは個々のケースによります。専業主婦(主夫)である場合は、離婚する前によく調べておきましょう。
退職金について把握しておく
相手の退職金は、すでに支払われており、それがまだ残っている場合、財産分与の対象となります。
まだ支払われていない場合は、支払われるまでにあとどれくらいの年数があるかなどの事情を考慮して、財産分与の対象となるかどうかが決まります。
詳しくは後述しますが、離婚したら相手の退職金を財産分与で得られるかどうかは非常に重要なことですので、弁護士に調査を依頼するなどして把握しておきましょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
熟年離婚の手続
熟年離婚するにあたって、まずは夫婦による話合いを行います。この段階で揉めることなく合意できれば、いわゆる協議離婚が成立し、離婚届を提出することになります。
話合いがまとまらなかった場合は、離婚調停を行うことになります。離婚調停は、家庭裁判所で、調停委員が妻側・夫側からそれぞれ話を聞き、合意に向けて意見調整が行われます。早ければ1回のみで終わることもありますが、双方が譲らなければ10回以上行われることもあります。
離婚調停でも合意に至らなかった場合、離婚裁判を起こすことになります。ただし、裁判には民法に定められている離婚事由(不貞、悪意の遺棄など)が必要となります。また、調停を飛ばして裁判を起こすことはできません。裁判が終わるまでには1年~2年ほどかかり、弁護士に依頼する場合はその費用も必要です。
熟年離婚で慰謝料はもらえるのか
熟年離婚で慰謝料が得られるかどうかは、離婚の理由によります。
性格の不一致など、どちらかに一方的な責任があるわけではないケースでは、慰謝料の請求はできません。一方、離婚の理由が相手の責任にある場合(不貞行為、DV(家庭内暴力)、モラハラ、悪意の遺棄(同居をしない、生活費を渡さない、家事をしない等)など)は、慰謝料の請求が認められる可能性があります。
金額は一般的には50万円~200万円ほどと言われていますが、それぞれのケースによりますので、上下することもあります。
退職金は必ず財産分与できるわけではない
相手が退職時にもらう退職金も、離婚の際に財産分与されるとご説明しましたが、絶対というわけではありません。
すでに退職金をもらっている場合、または退職が近い場合は財産分与の対象となる可能性が高いですが、退職がまだまだ先という場合は対象にならないこともあります。
以下で、それぞれご解説します。
退職金がすでに支払われている場合
退職金がすでに支払われている場合、そのお金は財産分与の対象となります。ただし、対象となるのは結婚していた期間に勤務していた年数の分となります。例えば、勤務年数が勤続40年、そのうち結婚していた期間が30年なら、退職金にその割合を掛けた金額の、さらに半分が財産分与で得られる分となります。例として退職金が1000万円とすると、単純計算で、
1000万円×(30÷40)×1/2=375万円
が得られる額となります(実際には、個々の細かな事情が考慮されます)。
退職金は支払われたが使ってしまってもう残っていないという場合は、財産分与の対象とはなりません。ただし、一方的に相手が浪費したというケースでは、財産分与で考慮される可能性もあります。
退職金がまだ支払われていない場合
退職金がまだ支払われていない場合、勤務先に退職金に関しての規定があるか、相手がその勤務先に勤めた期間はどれくらいか、退職金が支払われるまでにあとどれくらいの期間があるかという基準をもとに、退職金が支払われることがどれくらい見込めるかで、財産分与の対象となるかどうか決まります。
退職金が支払われることがほぼ確実とみなされるならば、財産分与の対象となります。逆に、支払われるかわからない、退職までまだ十年以上あるといった場合等では、財産分与の対象とならないケースがほとんどです。
熟年離婚したいと思ったら、弁護士にご相談ください
夫の定年退職や子供の自立をきっかけに、あるいはきっかけがなくとも長年の不満が募って我慢の限界が来たなど、熟年離婚を決意される方が多くなっています。
ご自身のケースで離婚は認められるのか、離婚できるとしたら、財産分与ではどのくらい得られるか、慰謝料は得られるのか、そのほかにも年金分割について、相手の退職金についてなど、ご不安やご心配は多いかと思います。弁護士法人ALGでは多くの離婚案件を取りあつかっており、なかでも熟年離婚について詳しく、取りあつかった経験が豊富な弁護士も在籍しております。熟年離婚を決意したものの何から始めたらいいかわからない、相手との交渉を弁護士に任せたい、財産分与や年金分割について知りたい等、ご不安やご不明なことがあれば、お気軽にご相談にいらしてください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)