監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
親族が亡くなったとき、「兄弟でいくらずつ分ければいいのか」「再婚相手や連れ子は相続できるのか」など、相続分でもめるご家庭は少なくありません。
そんなときの基本となるのが「法定相続分」です。
本記事では、民法の条文に基づき、法定相続分の考え方やケース別の計算方法、遺留分との違い、法定相続分が認められない人の扱いなどを、できるだけわかりやすく解説します。
目次
法定相続分とは
法定相続分とは、民法900条で定められた「各相続人が相続できる割合」のことです。
遺言がない場合や、遺産分割協議で話し合いがまとまらない場合に、最終的な基準として用いられます。
法定相続分は遺産分割協議で使用される
相続が開始すると、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産をどの程度取得するかを話し合うのが原則です。
この際の基本的な目安・ものさしとなるのが、民法で定められた法定相続分です。
ただし、相続人全員が合意している限り、法定相続分と異なる割合で遺産を分けることも可能です。
法定相続人の範囲と相続順位
血のつながりのある相続人は、第1順位が子ども(子が亡くなっていれば孫など)、第2順位が父母などの直系尊属、第3順位が兄弟姉妹です。
前の順位に一人もいないときに、次の順位の人が相続人になります。
配偶者は常に相続人であり、子どもや父母、兄弟姉妹と一緒に相続することになり、この組み合わせによって法定相続分の割合が変わります。
| 順位 | 法定相続人 |
|---|---|
| 常に相続人 | 配偶者 |
| 第1順位 |
被相続人の子など直系卑属 (親子関係でつながった親族のうち下の世代) |
| 第2順位 |
被相続人の父母など直系尊属 (親子関係でつながった親族のうち上の世代) |
| 第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹 |
【ケース別】法定相続分の割合と計算方法
配偶者+子供の場合
被相続人に配偶者と子どもがいる場合、法定相続分は民法900条1号により、配偶者が2分の1、子ども全員で2分の1と定められています。子どもが複数いるときは、この2分の1を子どもの人数で均等に分けて計算します(民法900条4号)。
配偶者+父母の場合
子どもがいない場合で、配偶者と父母など直系尊属が相続人になるときは、民法900条2号により、配偶者が3分の2、父母ら直系尊属全体で3分の1を相続します。父母が2人とも健在であれば、この3分の1を2人で等しく分けることになります(民法900条4号)。
配偶者+兄弟姉妹の場合
子どもも父母もいない場合で、配偶者と兄弟姉妹が相続人となるときは、民法900条3号により、配偶者が4分の3、兄弟姉妹全体で4分の1を相続します。兄弟姉妹が複数いる場合は、この4分の1を人数で等しく分けて取得するのが原則です(民法900条4号)。
配偶者のみ・子供のみ・親のみ・兄弟姉妹のみの場合
配偶者だけが相続人となる場合は、民法890条により、配偶者が遺産の全部を相続します。
子どものみ、父母のみ、兄弟姉妹のみが相続人となる場合は、民法900条4号に基づき、同順位の相続人同士で人数に応じて均等に分けるのが原則です。
配偶者+孫の場合(代襲相続)
本来相続人となるはずの子どもが、被相続人の死亡前に死亡・欠格・廃除などにより相続権を失っている場合、その子どもの直系卑属である孫が、民法887条2項に基づき「代襲相続人」として相続人になります。
この場合でも、基本的な割合は民法900条1号と同じで、配偶者が2分の1、残り2分の1を「子どもの立場を引き継いだ孫」が取得します。
養子がいる場合
養子縁組をして法律上の「子」となった養子は、実子と同じ第1順位の法定相続人となります。法定相続分も実子と同じで、配偶者と子どもが相続人となる場合には、民法900条1号に従い、配偶者が2分の1、残り2分の1を実子と養子を含む全ての子で等分します。
養子が複数いる場合も、子どもとしてひとり分のカウントで均等に計算されます。
非嫡出子がいる場合
婚姻外で生まれた子(非嫡出子)であっても、被相続人から認知されるなどして法律上の親子関係がある場合には、「子」として相続人となります。現在の民法900条4号は、嫡出子と非嫡出子の相続分の差を設けておらず、どちらも同じ法定相続分を有します。
したがって、配偶者と子どもが相続人の場合には、嫡出子・非嫡出子を問わず、全ての子が2分の1の持分を等しく分け合うことになります。
法定相続分が認められない人
離婚した元配偶者
配偶者として相続権を有するのは、相続開始時点で法律上の婚姻関係にある者に限られます(民法890条)。離婚が成立した元配偶者には、法定相続分も遺留分も一切認められません。
内縁関係や事実婚の状態にある人
婚姻届を出していない内縁関係や事実婚の相手は、民法上の「配偶者」には当たらないため、民法890条に基づく法定相続人にはなりません。
長年同居していても、自動的に相続権が認められることはない点に注意が必要です。
養子縁組をしていない再婚相手の連れ子
再婚相手の連れ子は、そのままでは被相続人との法的な親子関係がなく、民法887条1項の「子」には当たりません。このため、養子縁組をしていない連れ子には法定相続分は認められず、相続人とはなりません。
代襲相続人でない孫や甥姪
孫は、通常は相続人にはなりません。孫が相続人となるのは、子どもが死亡・欠格・廃除により相続権を失った場合に、民法887条2項に基づき「代襲相続人」となるときだけです。
同様に、甥や姪も、民法889条2項に定めるとおり、被相続人の兄弟姉妹が相続権を失った場合に限り、その代襲相続人として相続権を持ちます。それ以外の場合には、孫や甥姪に法定相続分はありません。
相続放棄した人
相続人であっても、家庭裁判所に相続放棄の申述を行い受理されると、民法939条により「初めから相続人でなかったもの」とみなされます。この場合、その人には法定相続分も遺留分も一切認められず、次順位の相続人や他の共同相続人の持分が増えることになります。
相続放棄は自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に行う必要がある(民法915条)ため、期限管理にも注意が必要です。
相続廃除や相続欠格に該当する人
被相続人を殺害した場合など、民法891条に定める重大な非行があるときは、本人は相続欠格となり、相続権を失います。
また、被相続人への虐待や重大な侮辱がある場合には、被相続人の請求により家庭裁判所が相続人の地位を奪う「相続廃除」(民法892条)もあり、この場合も法定相続分は認められません。
ただし、欠格・廃除された者の子は、民法887条2項により代襲相続人として相続できる点が特徴です。
法定相続分と遺留分の違い
法定相続分とは、民法900条に定められた、相続人ごとの原則的な取り分の割合です。
これに対して遺留分とは、被相続人が遺言や生前贈与で財産を処分しても、配偶者や子、直系尊属など一定の相続人に最低限保証された取り分をいい、民法1042条以下で定められています。
法定相続分は当事者の合意や遺言で増減可能ですが、遺留分を侵害した場合には、遺留分侵害額請求(民法1046条)により調整が図られます。
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遺産分割が法定相続分どおりにならないケース
遺言書がある場合
被相続人が有効な遺言書を残している場合には、原則として遺言による指定が法定相続分に優先します(民法902条)。
たとえば、特定の相続人に自宅を相続させる、相続人ではない第三者に財産を遺贈する、といった内容も可能です。
ただし、遺留分を侵害しているときは、遺留分侵害額請求によって、侵害された部分について金銭での調整を求められることがあります。
生前贈与があった場合
ある相続人が多額の贈与を受けている場合には、その贈与が「特別受益」と評価され、民法903条に基づき他の相続人との不公平を是正する必要が生じることがあります。
この場合、特別受益の額をいったん遺産に持ち戻して「みなし相続財産」を計算し、その上で各相続人の相続分を算出したうえで、特別受益を受けた人の取り分からその分を控除する方法が取られます。
寄与分が認められる場合
他の相続人に比べて、被相続人の事業を長年支えたり、療養看護を続けたりするなどして、遺産の維持・増加に特別の貢献をした相続人には「寄与分」が認められることがあります。
この場合、まず相続財産から寄与分相当額を差し引いた残額について法定相続分に従って各人の取り分を計算し、そのうえで寄与分を有する相続人には、その計算結果に寄与分額を加算して具体的相続分を算出します。
法定相続分に関するよくある質問
法定相続分を超える相続にはどんなものがありますか?
法定相続分を超えて遺産を取得する典型的な場面としては、被相続人が遺言で特定の相続人に多く相続させる場合(民法902条)、遺産分割協議で他の相続人の同意を得て取り分を増やす場合(民法907条)、寄与分が認められて法定相続分に上乗せされる場合(民法904条の2)などがあります。
法定相続分がない人に遺産を取得させる方法はありますか?
内縁の配偶者や養子縁組をしていない連れ子、長年お世話になった第三者など、法定相続分のない人に財産を残したい場合には、遺言による遺贈(民法964条)や死因贈与契約、生前贈与の活用が考えられます。
また、第三者が法定相続人から相続分を購入するなどして譲り受ける(民法905条参照)ことも可能です。
その他にも、生命保険の受取人に指定する方法や、連れ子と養子縁組をして法定相続人にしておく方法もあります。
法定相続分についてのお悩みは遺産分割問題に強い弁護士にご相談ください
法定相続分は一見シンプルなルールに見えますが、実際には、代襲相続や特別受益、寄与分、遺留分侵害額請求、生前贈与や遺言の有無など、複数の要素が重なって非常に複雑になることが少なくありません。
また、感情的な対立が深まると、法律的には正しい主張であっても話し合い自体が進まなくなることもあります。
相続が発生した段階はもちろん、生前の相続対策の段階からでも、遺産分割問題に精通した弁護士に相談することで、紛争を未然に防ぎ、円満かつ適正な解決につなげることができます。

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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
