
監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
親族が亡くなり、ご自身が法定相続人となったとき、相続放棄をするという選択肢があります。
相続ではプラスの財産だけでなくマイナスの財産(負債)も受け継ぐことになるところ、被相続人に莫大な借金があった場合や、そのような事情はなくても相続に関わりたくない場合には、相続放棄をすることが考えられます。
この記事では、相続放棄をした場合に被相続人が所有していた家はどうなるのか、相続放棄の手続を行ううえで注意すべき点は何かについて、解説していきます。
目次
相続放棄をしたら家はどうなる?
次の順位の相続人が相続する
相続放棄をすると、その人は初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
そこで、同順位の親族がいない場合、次の相続順位の人が相続人となります(相続順位は、被相続人の①子、②直系尊属、③兄弟姉妹)。
そうなると、次の相続順位の人が、相続するか、相続放棄をするかを決めていくことになります。
全員が相続放棄した場合・相続人がいない場合は国のものになる
相続人の候補者全員が相続放棄した場合、初めから相続人がいなかったことになります。
また、もともと被相続人に存命中の配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹がおらず、当初から相続人がいない場合もあります。
このような場合には、被相続人の財産は、相続財産清算人の選任等の手続を経た後、最終的に国庫に帰属します(民法959条)。
空き家になる場合、相続財産清算人の選任が必要
相続人がいないことにより、被相続人が所有していた家が空き家になる場合には、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します(民法952条1項)。
もしも、相続放棄した人が、放棄の時に相続財産である家を現に占有していたときは、相続財産清算人にその家を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その家を保存しなければなりません(民法940条1項)。
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相続放棄をしても家に住みたい場合の対処法
相続放棄をすると、相続財産に対する権利を得ることができなくなるのですから、基本的に家に住み続けることはできません。
相続放棄をしても家に住みたい場合は、以下のような対処法が考えられます。
相続放棄後に相続財産清算人から買い戻す
家に住むためには、その家を自分の財産にしなければなりません。そこで、相続放棄後に、相続財産清算人との交渉により、家を買い戻すという方法が考えられます。
ただし、家を買い戻せることが保証されているわけではありません。他の競売参加者と競争となって、落札できず入手できないこともあります。
また、当然ながら、家を買い戻すための資金は相続財産の外から調達しなければなりません。
限定承認する
相続放棄とは違う手続になりますが、法定相続人になった場合の選択肢として、限定承認という方法があります。
限定承認とは、プラスの財産の限度でマイナスの財産を引き継ぐ方法です。
限定承認をした相続人は、相続財産の取得を望む場合、鑑定人の評価額に従いその金額を支払えば、その相続財産の競売を止め、対象の相続財産を優先的に買い受けることができます(民法932条ただし書参照)。
ただし、限定承認は、相続人全員が一緒にしなければならないうえ(民法923条)、手続が複雑であるという難点があります。
空き家を相続放棄すべき理由
空き家がある場合に相続放棄すると、以下のようなメリットがあります。
- 不要な財産の処分に悩まなくて済む
- 固定資産税の支払をしなくて済む
また、家に限らず相続放棄全般のメリットでいうと、
・相続に関わる揉め事から逃れられる
ことも挙げられます。
ただし、相続放棄する場合には、以下のような注意点があります。
相続放棄する場合の注意点
家の片づけや遺品整理はNG
相続放棄をしたい場合、家の片づけや遺品整理には気を付けましょう。
相続人が相続財産を処分した場合、単純承認をしたものとみなされることがあるからです(民法921条1号)。
また、相続放棄をした後であっても、相続財産を私に消費した(ほしいままに処分して原型の価値を失わせた)場合には、単純承認をしたとみなされてしまいます(同条3号)。
単純承認をしたことになると、無限に被相続人の権利義務を承継することになります(民法920条)。
他の相続人に相続放棄することを連絡する
相続が発生すると、相続人どうしで遺産分割協議をすることになります。そのため、相続放棄をした場合には、他の相続人にその旨を知らせる必要があります。
また、先ほども述べましたが、相続放棄をすると、その人は初めから相続人とならなかったものとみなされ、次の相続順位の人が相続人となります。そして、次の相続順位の人が、相続するか、相続放棄をするかを決めていくことになります。
したがって、自分が相続放棄をすることにより相続人となる人にも、連絡を入れるべきです。
家の相続放棄に関するQ&A
家だけ相続放棄できますか?
遺産のうち、家だけを相続放棄することはできません。
相続放棄をすると、初めから相続人とならなかったものとみなされるため、家以外の遺産についても相続できないことになるのです。
そのため、家はいらなくても多額の預貯金があるなど、相続のメリットが大きいと考えられる場合には、家も含めて相続するという選択になるでしょう。その場合、他の相続人も家に住む意思がないのであれば、売却等の処分を検討することになります。
亡くなった父は賃貸に住んでいました。家の鍵を返すよう言われているのですが、返しても大丈夫でしょうか。それとも次順位の父の兄弟に渡すべきでしょうか。
賃貸借は、借主が亡くなっても当然に終了することはなく、相続人に賃借権が引き継がれます。
そのため、賃貸借契約を解除して家の鍵を返すという判断は相続人がすべきであり、相続放棄をする人が勝手に鍵を返してはいけません。
相続放棄すると、次の相続順位の人が相続人となります。そのため、自分の次の相続順位に当たるのが、亡くなった父の兄弟なら、その兄弟に家の鍵を渡しましょう。
相続放棄した家が倒壊したら誰の責任になりますか?
先ほど述べたとおり、相続放棄した人が、放棄の時に相続財産である家を現に占有していたときは、相続財産清算人にその家を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その家を保存しなければなりません。
そのため、相続放棄をしたとしても、その人が被相続人の生前に被相続人と同居していた場合などで、相続放棄の時にも家を占有していた場合には、家の保存義務を負います。
したがって、このような場合に家が倒壊したら、相続放棄をした者でも責任を負います。
相続放棄した家の解体費用は誰が払うべきですか?
相続放棄をしていない相続人がいれば、その相続人が家の解体費用を払うことになります。
他方で、相続人の候補者全員が相続放棄し、相続財産清算人が選任された場合には、相続財産清算人が家の処分を行います。この場合、解体費用や相続財産管理人の報酬は、相続財産から支払われます。
しかし、相続財産が少なく、費用が賄えない場合には、相続財産清算人選任時の裁判所予納金として、選任の申立人が報酬相当額の予納を求められる可能性が高いです。
家の相続放棄についてお困りなら、弁護士へご相談ください
これまで見てきたように、家だけを相続したり、反対に家だけ相続放棄したりすることはできません。
そして、相続放棄するとしても、注意しなければならない点が多々あります。そもそも、相続放棄は相続の開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません(民法915条1項、938条)。
弁護士は、相談者様の状況に応じて、最善の策をご案内することが可能です。遺産に家がある場合の相続放棄についてお困りなら、ぜひお早めに弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)