監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
突然ですが、皆さんはご自身の財産として現在どういった財産があり、その金額がいくらなのか、正確に説明できるでしょうか。
筆者は、正直なところ、すぐに口頭で正確に述べることは困難です。
まして、家族のものなど全くといってよいほど把握できていません。
相続の場面では、亡くなった家族の財産を把握することから始まることになりますが、これを目録として書き出さずに協議を進めますと、あやふやな記憶のまま話を進めることになりかねません。そこで、財産目録を作成することで手続きをスムーズに進めることができます。
目次
財産目録とは
相続の場面における財産目録とは、被相続人の財産を個別の財産ごとに書き出し、その金額を記載する表のことを指します。
預貯金、有価証券、不動産、現金、借金といった金額を基準時と共に書き出すことで、一覧性のある表にすることができ、相続の処理をスムーズに進めることが可能となります。
財産目録を作成できるのは誰?
相続の場面で財産目録が必要となる場面は、遺産分割や遺言執行の場面です。
そのため、たとえば被相続人が生前から財産目録を作成しておくことで、相続人による相続手続をスムーズに進めることができるでしょう。また、遺言がある場合で、遺言執行者がいる場合は、遺言執行者は、遅滞なく相続財産の財産目録を作成して相続人に交付をしなければなりません(民法1011条)。
遺言がない場合は、相続人が協力して被相続人の財産目録を作成することになるでしょう。
いずれにせよ、相続の処理にあたっては、被相続人の財産目録を作成することがスタートとなります。
財産目録を作成するメリット
財産目録を作成することで、財産の内容や、その金額を一目で把握することができ、金額間違いによる処理を防ぐことができます。
金額に誤りがあったりしますと、相続の手続をやり直さなければならないこともありますので、財産目録の作成は事後のトラブルを避けるためにも重要です。
生前贈与等の相続税対策ができる
現時点における自己の財産を正確に把握することで、仮に現時点で自分が死亡してしまった場合にどの程度の相続税が相続人に課されることになるのか、相続税の支払いに必要な現預金は準備が可能なのかが把握できます。これにより、生前贈与による対策や相続税における各種控除の利用方法を具体的に検討でき、相続税に向けた対策をすることができます。
相続税申告の際に便利
相続税の申告は、相続の開始から10ヶ月以内に申告をしなければなりませんが、相続財産の把握に一定の期間を要するため、期限が近付いたタイミングで動き始めても間に合わないといったことがあり得ます。財産目録を予め作っておくことで、少なくともどういった財産があるのかが容易に把握でき、相続税申告の手続が進めやすくなります。
遺産分割協議がスムーズになる
遺産分割は、被相続人の遺産を相続人に分けていく手続ですので、前提として、被相続人の財産を把握する必要があります。被相続人の財産を一覧表にした財産目録があれば、それを前提に相続人間で遺産分割の協議を行えばよいので、遺産分割をスムーズに進めることができます。
相続トラブルを防げる
相続人の中に、被相続人と疎遠になっている相続人と、身の回りの世話をしている相続人とがいる場合、被相続人と疎遠になっている相続人から被相続人の財産隠しを疑われることがあります。財産隠しを疑われ、遺産の範囲に争いが生じてしまった場合、遺産分割を成立させるまで年単位で協議をしていかねばらないこともありますので、正確な財産目録があることで相続トラブルを一定程度防ぐことが可能となります。
また、遺産分割後に、新たに財産が見つかった場合、改めて遺産分割をしなければならなくなることもありますので、財産目録があることで漏れを防ぐことができます。
相続放棄の検討材料にもなる
プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合、相続人としては相続放棄をすることが多いと思いますが、そもそも財産状況がわからないと、相続放棄をするべきかどうかの判断も難しいといったことがあり得ます。特に、相続放棄は、相続の開始を知ってから3ヶ月以内に手続きをしなければならないため、財産目録を予め作っておけば、相続人が容易にその判断を行うことが可能となります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
財産目録の作成方法
財産目録の書き方
財産目録の書き方に決まりはありません。
そのため、手書きであっても、パソコンで作成をしても構いません。
記載した方がよい内容としては、①財産の費目、②基準日、③基準日時点の金額という点となります。
記載する内容
預貯金
預貯金は、各金融機関名、支店名、口座番号、口座種別、基準日時点の残高を記入します。注意を要する事項としては、基準日の直前に引き出しなどがある場合は、それを含めるのかどうかの検討が必要であり、その判断は個別事情によりますので、専門家に相談いただくのがよいでしょう。
不動産
対象不動産の特定に必要な事項と、基準日における不動産の評価額を記載します。
不動産の特定は、基本的に不動産登記事項全部証明書の記載に従って記載します。土地であれば、所在、地番、地目、地積を記載し、建物であれば、所在、家屋番号、家屋の種類、構造、床面積を記載します。
評価額は、預貯金のように客観的に決まっているものがありませんが、参考として固定資産評価額を記載するのが一つでしょう。
有価証券
株式については、上場株式なのか、非公開株式なのかによって変わり得ます。
上場株式の場合は、証券口座を特定するために証券会社の名前や支店名、口座番号と共に、保有株式数、財産目録作成時点における評価額を記載するのがよいでしょう。
上場されていない会社の株式である場合は、会社名と保有株式数を記載し、会社の決算書がある場合には、純資産額を記載しておくのが一つの方法です。
自動車等の動産
動産は、不動産以外の物をいうとされています(民法86条2項)。財産目録として記載するのであれば、換価価値のあるものを記載すれば足りるでしょう。一般論としては、宝石や高級時計、価値のある骨董品などが考えられます。
自動車の場合は、自動車検査証の記載に基づいて、自動車を特定します。自動車登録番号、登録年月日、初年度登録月、車台番号、型式、車種などを記載します。
借金やローン等の負債
負債について、金融機関からの借金であれば、借入先の金融機関名、借入残高、現在残高、利率、借入年月日、最終弁済時の年月日などを記載します。
個人からの借入であれば、借入年月日、借入残高、現在残高、最終弁済時の年月日などを記載します。
慰謝料のような損害賠償金であれば、当該損害賠償の元となった行為があった日、相手方に負わせた損害の内容、示談や判決で定まった金額がある場合はその金額などを記載するのがよいでしょう。
財産目録はいつまでに作成すればいい?
財産目録は、遺言執行者が作成する場合以外は、相続の場面で作成が義務付けられているわけではありません。
しかし、相続放棄や相続税の申告には期限があり、財産目録を作成していないことで、手続の遅延や漏れが生じた場合、思わぬ損失を被ってしまうことがあり得ます。また、被相続人の死亡後に、財産目録の作成を早期にしなかったことで、財産隠しの有無をめぐって紛争化することもありますので、財産目録が必要となった場合は早期に作成する方がよいでしょう。
財産目録が信用できない・不安がある場合
誰かが作成した財産目録が信用できない場合は、自ら調査を行い、改めて財産目録を作成した方がよいでしょう。 遺産分割の場面であれば、相続人は、被相続人名義の資産を、相続人という立場によって相当な範囲まで調査することができます。銀行であれば過去の取引履歴を取り寄せることができますし、内容を精査することで、財産の流れを把握できることも可能となります。 また、遺産の範囲等も含めて相続人間で争いがある場合は、家庭裁判所における遺産分割調停を利用するのも一つの方法です。円滑な相続は財産目録の作成が大切です。弁護士へご相談ください
相続の手続では、各個別の財産を余すことなく、正確に把握することが必要です。
生前の場面では遺言書の作成や相続税対策として必要となりますし、相続発生後の場面では、遺言の執行、遺産分割協議、相続税申告、相続放棄の判断資料として必要となります。
財産目録の作成が遅れますと、その後の手続も遅延していくこととなりますので、財産目録の作成が必要だと感じられた場合は、その後の手続のことも含め、専門家にご相談ください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)