監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
遺産分割とは、被相続人(亡くなった人)の財産を相続人間で分けることです。財産を分けると一言で言っても、財産の種類、相続人の数などによって、具体的にどのように分けるのが適切かは異なります。以下では、具体的にどのような遺産分割方法があるのかを見ていきたいと思います。
目次
遺産分割の方法は複数ある
遺産の中には、現金、預貯金、上場株式などのように評価額が比較的に明確で、1円単位にも分けやすい財産もあれば、不動産、美術品、貴金属などのように人によって評価に差が生じやすく、物理的に分けることが難しい財産もあります。
遺産分割の方法としては、現物分割、換価分割、代償分割、共有分割があり、それぞれの事案によってこれらの分割方法のうち適切なものを利用しながら、相続人間で納得がいくように遺産分割を進めていくことになります。
分割方法1:現物分割とは
現物分割とは、遺産そのものを相続人それぞれが受け継ぐ分割方法です。例えば、妻が自宅を、長男が預貯金を、次男が骨董品を、長女が宝飾品を、それぞれ相続するという場合です。
現物分割のメリット
現物分割のメリットは、手続きが簡明である点です。あるものをそのまま相続人それぞれが受け継ぐので、相続にあたって売却手続などを取る必要がありません。遺産がそのままの形で残せるので、心情面でも受け入れやすいかもしれません。
現物分割のデメリット
現物分割のデメリットは、遺産を平等に分けることが難しい場合がある点です。相続人は子3人で、遺産は預金3つ(それぞれに100万円ずつ入金されている)であれば、平等に分けることはできます。しかし、遺産が自宅不動産、収益不動産、預貯金の場合には、現物を相続人間で分けるとなると、誰がどれを取るかで話し合いが難航する可能性が高いです。
分割方法2:換価分割とは
換価分割とは、遺産そのものは売却した上で、売却代金を相続人間で分けるという方法です。不動産をはじめ、株式、自動車、貴金属、美術品その他ありとあらゆる財産で換価分割は可能です。
換価分割のメリット
財産を実際に売って現金化するということですから、遺産の価値が明確になり、それを分割する際の公平性が担保されます。現物分割のところで見た、相続人が子3人で、遺産が自宅不動産、収益不動産、預貯金であるという例において、自宅不動産、収益不動産を売却し、預貯金を引き出し、全てを現金化すると、子3人で分ける際にも、平等に分けることが可能です。
換価分割のデメリット
一方、財産を売却するため、一定の時間を要します。さらに、不動産、自動車、株式など多くの財産は、相続人全員が同意をしていなければ売却をすることが困難であるため、相続人の中に売却を反対する者がいると協議が進まなくなります。
分割方法3:代償分割とは
代償分割とは、遺産を相続人の一部の者が相続し、その者から残りの相続人に対して相続分に相当する代償金を支払うという分割方法です。例えば、相続人(A、B、C)が子3人で、遺産が自宅不動産(3000万円)であった場合に、Aが自宅不動産を相続したときは、AからB、Cに対してそれぞれ1000万円ずつの代償金を支払うことになります。
代償分割のメリット
代償分割のメリットは、公平性を確保できる点にあります。現物分割のところで見た、相続人が子3人(A、B、C)で、遺産が自宅不動産(2500万円)、収益不動産(2500万円)、預貯金(1000万円)であるという例において、自宅不動産を相続したAと収益不動産を相続したBが、預貯金を相続したCに対して、それぞれ500万円ずつ代償金を支払うことで平等となります。
代償分割のデメリット
しかし、代償分割が可能となるのは、遺産の評価に争いがないときです(上記例であれば、自宅不動産、収益不動産がそれぞれ2500万円であることに争いがないときです。)。仮にCが各不動産の価値がもっとあると争った場合には、代償金の額を決めることができません。
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分割方法4:共有分割とは
共有分割とは、遺産を相続人間の共有状態で相続する方法です。相続人が子3人で、遺産が自宅不動産のみの場合、自宅不動産を3人の共有として、それぞれが持分3分の1ずつの登記をすることになります。
共有分割のメリット
メリットとしては、遺産をそのまま残すことができ、また、法定相続分に従った共有にすることで、公平性も保てます。
共有分割のデメリット
もっとも、共有分割は分割と言いながらも共有状態で置いておくため、不完全であり、共有者間で争いが生じた場合には、再度共有物分割を行う必要が生じます。また、共有者の一部が亡くなると、共有持分が相続の対象となるため、権利関係がさらに複雑になるというリスクもあります。
遺言書に遺産分割方法が書かれている場合は従わなければならない?
遺言書がある場合には、原則として遺言書の内容に従って、遺産を分割することになります。そして、遺言書に記載されていない財産については、別途相続人間で遺産分割の協議を行うことになります。
もっとも、相続人間で遺言書とは異なる遺産分割の内容で合意ができている場合には、遺言書の内容と異なる遺産分割ができる場合もあります。
なお、遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害する場合であっても、それによって遺言書の内容が無効になるということはなく、遺留分を侵害された相続人がその侵害額に応じて、他の相続人等に金銭請求ができるにとどまります。
遺言書がない場合の遺産分割方法
遺言書がない場合には、相続人全員で遺産をどのように分けるかを話し合って決めることになります。話し合いで決着がつけば遺産分割協議書を作成し、その内容通りに分割することになります。もし相続人のみでは話し合いにならない場合には、家庭裁判所での調停などを利用することもできます。相続人間で決着がつかない場合、法律で定められた相続分を基本とし、特別受益や寄与分で加減を取ることになります。
遺産分割の方法でお困りのことがあったら、弁護士にご相談ください
遺産分割方法にはさまざまな方法があり、それぞれの方法にはメリットもデメリットもあるため、個々の事案に応じて使い分ける必要があります。そして、分割方法を揉めている相続人の中にはその方法のデメリットを理解しないままに何らかの理由から固執している場合などもあります。そのため、専門家である弁護士から説得をすることで、他の相続人も納得して、望む形での分割を実現できることもありますので、分割方法でもめている場合にも、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)