監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
本稿では、遺産分割の前提となる相続財産調査について、解説していきます。なぜ相続財産調査が必要なのか、どのような相続財産があるのか、どのように相続財産調査を行っていくのかについて順にみていきたいと思います。
目次
相続財産調査の重要性
- 財産がわからないと分割ができない
- 手続きをしないと受け取れないものもある(預貯金など)
- 知らずに借金を背負う可能性がある など
遺産分割とは、被相続人の財産(相続財産)を相続人間で分けて、それぞれが承継することです。相続財産に何があるかが分かっていなければそもそも分けることもできません。
また一方で、借金もマイナスの財産になりますが、ちゃんと相続財産調査をしないままに被相続人の預貯金を遺産分割した後に、多額の借金があることが判明した場合、その借金も相続の対象になるため、大変なことになってきますこともあります。
相続財産にあたるもの
プラスの財産の種類
典型的なものとしては、不動産、預貯金、株式、貴金属、宝飾品、骨董品、自動車などが挙げられます。その他にも、目に見えるものではありませんが、売掛金債権、賃借権、知的財産権などの権利も相続の対象となります。
マイナスの財産の種類
一方、マイナスの財産も相続財産となります。典型例は、借金、未払いの税金、ローンなどです。その他にも、被相続人が他人の連帯保証人となっていた場合には、その連帯保証人の地位も相続されることになります。
相続財産調査の流れ
相続財産調査は、心当たりのあるところから、プラスの財産、マイナスの財産それぞれを調査していき、最終的に把握できた財産については財産目録という形で一覧できるようにまとめます。
財産調査に期限はある?
法律上、財産調査には期限はありません。しかし、相続が発生した場合には、できるだけ早く相続財産調査を行った方がよいとされています。一つには、相続放棄は自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないとされているからです。また、相続放棄をしないとしても、放置しておくと、財産が散逸してしまう、相続人にさらに相続が発生してしまう恐れがあるからです。
預貯金の調査方法
残念ながら、被相続人の預貯金を網羅的に教えてくれるシステムはないため、心当たりのある金融機関をしらみつぶしに探していくことになります。そこでヒントとなるのは、被相続人が有する通帳やキャッシュカードです。さらには、金融機関からの郵便物もヒントになることがあります。
これらのヒントが皆無の場合には、メガバンクや被相続人の住居地近辺の地銀などには照会するといいかもしれません。
金融機関に預金の有無及び残高を照会する際に、取引支店が分からない場合には、全店照会と言って当該金融機関の全支店での取引の有無、残高を調べることもできます。
取引があった場合、資料として残高証明書や取引履歴を発行してもらうことになります。
相続人に気付かれなかった口座はどうなるか
相続人が調査を怠り、被相続人の死亡から長期間が経過した場合、時効によって預金の払い戻しを請求できなくなってしまう恐れもあるため、預貯金の調査は慎重に行う必要があります。
不動産調査の方法
自宅不動産については、少なくとも住所(住所表示)は容易に把握することができると思いますので、大きく問題になることなく登記、固定資産評価証明書を取得することができると思います。
自宅以外の不動産について、心当たりがない場合にヒントとなるのは、納税通知書や権利証(登記識別情報通知)です。被相続人の身の回りを整理する際にはこれらの種類には注意しましょう。
また、その他にも、市役所等で名寄帳を取得するという方法もあります。なお、名寄帳は、問い合わせた市役所等が管轄内の不動産についてのものしかありませんので、問い合わせる際にはある程度目星をつける必要があります。
株式の探し方
上場株式については、証券保管振替機構に対して登録済加入者情報の開示請求を行ったうえで、口座を開設している証券会社、信託銀行が判明すれば、それぞれに対して残高証明書の開示を求めることになります。その他にも、通帳の取引履歴、確定申告書、証券会社等からの郵便などから株式の存在を知ることもできます。
非上場株式については、株券、株式引受契約書、株式譲渡契約書、株主名簿記載事項証明書などからその存在を知ることができます。
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借金の調査方法
借金については、金融機関、消費者金融等からの郵便、督促状や口座からの引き落としなどから推測し、各機関へ取引履歴の開示を請求することで確認することができます。
連帯保証人になっていないか調査する方法
保証人の地位も相続されますが、被相続人が他人の債務の保証人になっていたかどうかはなかなか把握することができません。被相続人が会社の代表者であった場合には、会社の債務を連帯保証しているケースが多いです。信用情報機関によっては保証人が登録されている場合もあるため、保証人となっている可能性があるときには、紹介をしてみましょう。
その他には、保証契約書や金融機関等からの郵便も注意して確認しましょう。
住宅ローンがある場合
被相続人が不動産を所有している場合には、住宅ローンがある場合があります。自宅不動産を購入した場合には、団体信用生命保険に加入しているケースが多く、この場合には被相続人の死亡により、住宅ローンが全額返済されることになります
被相続人が不動産を所有している場合には、住宅ローンの有無にも注意しましょう。
借金が多く、プラスの財産がない場合
相続財産を調査した結果、借金がプラスの財産より多い場合には、相続放棄を検討することになります。相続放棄をすることによって被相続人の一切の財産の相続を免れることができます。一部の財産だけ(例えば借金だけ)相続放棄をすることはできませんので、負の財産が大きい場合でも相続したい財産がある場合には相続放棄を選択しない方がいいケースもあります。
財産目録の作成について
財産目録とは、被相続人の相続財産についてまとめた一覧表です。遺産分割協議をするうえで、財産目録を作成しておけば相続財産の全貌が把握しやすく、円滑な話合いにもつながります。ですので、遺産分割調停・審判では、裁判所より財産目録の提出を求められます。
内容としては、不動産、預貯金、有価証券、現金、動産、負債などの種類ごとにまとめて作成し、各財産を特定したうえで(預貯金の場合、金融機関名、支店名、口座番号など)、各財産の評価額を記載していきます。
相続財産調査は弁護士へお任せください
相続財産調査は遺産分割を行っていくための大前提となり、相続財産が把握できなければ分ける話合いもできません。
しかし、被相続人の相続財産をまとめて知らせてくれるシステムなどはなく、地道に調査していくしかありませんが、人生のうち相続に直面する機会はほとんどないため、大多数の人は何をどう調査していけばいいのかすら、わからないと思います。
さらには、相続財産の調査が十分でなかったために、後々借金が判明したが、既に遺産分割を終え、法続放棄ができない状態になってしまった、せっかく遺産分割協議がまとまりかけていたのに新たな財産が発見されて、一から話合いをしなければならなくなったなどの大変な事態になる可能性もあります。
そのため、相続財産調査は非常に重要であり、慎重かつ迅速に行う必要がありますので、相続が発生した際には、一度弁護士に相談されることをお勧めします。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)