監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
親族が亡くなられた場合、遺言書が作成されていなければ、配偶者や子など共同相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。
遺産分割協議により、遺産をどのように分け合うかが決まると、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書を作成すれば、遺産分割協議で合意した内容を証明することができ、協議の蒸し返しを防ぐことができます。
以下では、遺産分割協議書の作成方法や作成する際の注意点などについて詳しく解説いたします。
目次
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、遺産分割協議により合意した内容を記載した書面をいいます。
通常、共同相続人間で誰がどの財産をどのような割合で取得するか合意が成立したら、その内容を証明するため、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書を作成することにより、「やっぱりやり直したい」「合意していない」といった相続人間での協議の蒸し返しを防ぐことができます。
遺産分割協議書は必要か
では、遺産分割協議書は必ず作成する必要があるのでしょうか。
以下では、遺産分割協議書の作成が必要なケースと不要なケースについて詳しく説明いたします。
法定相続分や遺言書どおりに相続しない場合は必要
基本的に、遺言書がなく、法定相続分(民法で定められている相続割合のこと)とは異なる割合で相続をする場合には、遺産分割協議書の作成が必要です。
通常、遺言書があり、その遺言書の内容どおりに相続をする場合には、遺言書と検認済証明書(公正証書遺言以外の場合、必要)が、各相続人の相続分を証明する資料となります。
また、遺言書がない場合であっても、法定相続分にしたがって相続する場合には、戸籍や法定相続情報一覧図によって法定相続分を明らかになります。
したがって、法定相続分とは異なる割合で相続するケースや遺言書の記載とは異なる内容で相続するケースにおいて、遺産分割協議書の作成が必要とされています。
相続税の申告をする場合は必要
法定相続分や遺言書どおりに相続をしない場合には、相続税の申告の際に、各相続人の相続分を証明する資料として、遺産分割協議書の提出が必要になります。
相続税の課税対象となる遺産が基礎控除額を超える場合には、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告をしなければならないところ、この申告期限までに遺産分割協議がまとまらなかった場合、未分割の状態で相続税の申告をすることになります。
遺産分割協議が未了であっても、原則として申告期限が延長されることはないため、注意が必要です。
名義変更が必要な相続財産がある場合も必要
遺産に不動産や自動車が含まれる場合、これらを相続する者に名義を変更する手続をしなければなりません。
相続を原因とする登記・登録の変更の際には、各相続人の相続分を証明する資料が必要となるところ、法定相続分や遺言書のどおりに相続しない場合には、その資料として遺産分割協議書の提出が求められます。
「やっぱりやり直したい」「合意していない」といったトラブルを防止できる
繰り返しにはなりますが、通常、遺言書がなく、かつ、法定相続分とは異なる割合で相続をする場合には、遺産分割協議書の作成が必要です。
一方で、遺言書がない場合であっても、法定相続分どおりに相続するのであれば、必ずしも遺産分割協議書を作成する必要はありません。
もっとも、遺産分割協議書を作成しておけば、相続人から協議のやり直しを求められるというトラブルを未然に防止できるため、たとえ法定相続分どおりに相続する場合であっても、遺産分割協議書を作成しておくことが望ましいといえます。
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遺産分割協議書が不要なケース
相続人が一人しかいない場合(複数相続人が存在したものの、相続放棄により相続人が一人になったケースも含みます)や遺言書によって全財産が分配されており、それにしたがって遺産を分ける場合も遺産分割協議書の作成は不要です。
遺産分割協議書はどこでもらえるの?
遺産分割協議書は、共同相続人全員で協議を行い、合意が成立した場合に相続人間で作成するものですので、役所等で配布されるものではありません。
なお、遺産分割協議書には、法律で決まった書式や形式がないため、パソコンや手書きでも作成していだいても問題ございません。
遺産分割協議書を作成できる人
では、実際に遺産分割協議によって合意が成立した場合、誰が遺産分割協議を作成できるのでしょうか。
遺産分割協議書は自分で作成できる?
遺産分割協議書の作成に、特に資格は必要なく、相続人であればどなたでも作成することが可能です。
もっとも、様式や形式が自由といえども、遺産分割協議では、被相続人や相続人、遺産の範囲等を明確に特定しなければ意味をなさないため、作成の際には記載漏れがないように注意が必要です。
ご自身で作成することに不安を感じておられる方は、専門家に依頼することをお勧めします。
遺産分割協議書の作成を専門家に頼むと作成費用はいくらかかる?
遺産分割協議書の作成を弁護士や行政書士等の専門家に依頼する場合には、約5万~15万円程度の費用がかかります。
専門家のなかでも、弁護士であれば、遺産分割協議を作成するにあたって幅広い知識を有しているため、そもそもどういった内容を遺産分割協議書に定めることができるのかという細かい事項に関してもアドバイスをすることができます。
遺産分割協議書はいつまでに作成すればいい?期限はある?
遺産分割協議書の作成期限については、法律で定められていません。
ただ、相続税の申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内と定められています。相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらなかったとしても、未分割の状態のまま相続税の申告をすることができます。
もっとも、配偶者控除や小規模宅地等の特例の適用を受けたいと考えている場合には、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割を成立させ、更正の請求を行うことが必要です。
相続税の申告の関係からも、できる限り早めに遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成すべきです。
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遺産分割協議書の作成に必要な書類
遺産分割協議書を作成に必要な書類は、以下のとおりです。
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人が出生してから死亡するまでのすべての戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 不動産の登記簿や預金の残高証明書といった相続財産に関する資料
遺産分割協議書の作成方法と流れ
遺産分割協議書は、以下の流れで作成します。
- 誰が相続人であるかを、相続財産は何かを調査して確定させる
- 相続人全員で遺産分割協議を行い、どのように遺産を分けるか合意を決める
- ②で合意した内容について、遺産分割協議書を作成し、全員が署名・捺印を行う
遺産分割協議書の書き方
上の見本のとおり、遺産分割協議書には、以下の事項を記入します。
- ①タイトル
- 被相続人の情報(氏名、本籍地、最後の住所地、生年月日)
- 遺産分割協議への合意の事実
- 遺産の内容と分割方法
- 遺産分割協議書を作成した日付
- 相続人の情報(氏名、現住所、被相続人との続柄)
- 相続人全員の署名捺印(実印)
遺産分割協議書の綴じ方
【契印の方法(ホチキス止め)】
契印とは、合意書が複数枚にわたる場合、その一つの文書であることを証明するために押印するものです。これによって、一部のページが後から差し替えられてしまうことを防ぐことができます。
複数枚の遺産分割協議書をホチキス止めする場合には、以下のように、見開きしたすべてのページに各相続人の実印を押します。
【契印の方法(製本)】
複数枚の遺産分割協議書を製本した場合も、製本した合意書の一部が差し替えられてしまわないように、製本の袋とじ部分に各相続人の実印を押します。
【割印の方法】
割印とは、2部以上の合意書を作成した際に、これらが同一であることを証明するために押印するものです。
遺産分割協議書は、複数の相続人間で合意した内容を記載する書面であるため、人数分作成されるのが通常です。
そのため、複数ある遺産分割協議書を作成した場合には、以下のように、複数の遺産分割協議書にまたがるように各相続人の実印を押します。
作成時には相続人全員の実印と印鑑証明が必要
基本的に、遺産分割協議書を作成する際には、実印で押印し、印鑑登録証明書を添付します。
認印で押印した遺産分割協議書が無効となるわけではありませんが、不動産の相続登記の手続や預金口座の払戻し手続の際には、実印で押印した遺産分割協議書と印鑑登録証明書の提出を求められることがほとんどです。
したがって、これらの手続をスムーズに行うためにも、遺産分割協議書を作成する際には、実印で押印し、印鑑登録証明書を添付することをおすすめします。
遺産分割協議書を相続人の人数分作成し、相続人全員の印鑑登録証明書を添付して保管する
後述の10の表のとおり、相続の手続の際に遺産分割協議書の提出を求められる機会が多いため、遺産分割協議書には、あらかじめ相続人全員分作成し、各相続人が1通ずつ遺産分割協議書を保管します。
また、相続人の意思に基づいて遺産分割協議書に署名捺印したことを、第三者に証明するために、遺産分割協議書には相続人全員の印鑑登録証明書を添付し、保管します。
遺産分割協議書の訂正が必要になったら
遺産分割協議書の記載に間違いがあり、訂正が必要になった場合には、該当部分に二重線を引き、その二重線の上に相続人全員の実印を押します。そのうえで、訂正箇所の近くに正しい文言を記載すれば足ります。
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遺産分割協議書のテンプレート(文例集)
共通して必要になる項目
遺産分割協議書には、被相続人を特定するため、被相続人の氏名と本籍地、最後の住所地、生年月日、死亡年月日は必ず記載が必要になります。
また、相続人の特定のためにも、相続人全員の署名と捺印(実印)、被相続人との続柄を記載します。
預貯金がある場合
遺産に預貯金がある場合には、「相続人〇〇は、次の預貯金を取得する」とし、金融機関名と支店名、口座の種類(普通・定期・当座)、口座番号、相続開始日の残高を記載して、相続する預貯金を特定します。
相続放棄した人がいる場合
相続放棄をした者については、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされるため(民法939条)、遺産分割協議に参加する必要がなく、遺産分割協議書への署名捺印は不要です。
そのため、遺産分割協議書においても、相続放棄をした者がいることを遺産分割協議書に明記する必要もありません。
もっとも、不動産などの相続財産の名義変更を行う際には、相続放棄を証明する資料として、家庭裁判所が発行する相続放棄受理証明書の提出を求められることがあるため、注意が必要です。
マンションがある場合
遺産にマンションがある場合には、「相続人〇〇は、次の不動産を取得する」とし、不動産の所在や家屋番号、種類、構造、床面積等を記載します。
これらの記載内容が誤っていると、名義変更の手続ができなくなるため、必ず不動産の登記事項証明書を取得し、そこに記載されているとおりに書き写してください。
相続人に未成年者や認知症の人がいる場合
相続人に未成年者がいる場合、単独で有効に法律行為を行うことができないため、通常親権者などの法定代理人が未成年者に代わって遺産分割協議を行うことになります。
ただ、親権者も相続人であるようなケースでは、未成年者と利益が相反する関係になる場合には、親権者は、未成年者のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求する必要があります。
相続人に認知症の方がいる場合についても、単独で有効に法律行為を行うことができないため、成年後見人が遺産分割協議に参加し、成年後見人が署名捺印することになります。
なお、成年後見人が選任されていない場合は、遺産分割協議を行う前に後見開始の審判を申し立てることが必要になります。
一人が全て相続する場合
遺産分割協議の結果、他の相続人が遺産を一切相続せず、相続人のうちの一人が遺産を相続することになったケースです。
その場合、遺産分割協議書には、相続人のうちの一人が全ての財産を取得する旨を記載すれば足り、他の相続人については、遺産を一切相続しないことが明らかになります。
なお、家庭裁判所に申立てを行う必要のある「相続放棄」とは異なり、いくら遺産分割協議書に「遺産を相続しない」「相続分を放棄する」といった内容を記載したとしても、負債については相続を避けられない点で注意が必要です。
遺産分割協議書の提出先
相続財産 | 提出先 | その他必要な手続き |
---|---|---|
預貯金 | 各金融機関 | ・預金の払戻し ・口座の名義変更 |
不動産 | 法務局 | 相続登記 |
株式 | 証券会社か株式の発行元の会社 | 名義変更 |
自動車 | 運輸支局 軽自動車検査協会(軽自動車の場合) |
名義変更 |
遺産分割協議書の作成後に新たな遺産が判明した場合
遺産分割協議書の作成後に、新たな遺産が判明した場合には、当該遺産についてのみ遺産分割協議を行い、どう分けるかを確定したら、遺産分割協議書を作成します。
すでに成立した遺産分割協議は有効とされるため、遺産の全てについて協議をやり直す必要はありません。
なお、新たな遺産が見つかった場合の取扱いについて、遺産分割協議書に記載しておいた場合には、その記載にしたがって分けることになります。
遺産分割協議書に関するQ&A
遺産分割協議書は手書きじゃなきゃダメですか?
遺産分割協議書には、法律で決まった書式や形式がないため、パソコンや手書きで作成していだいても問題ございません。
したがって、遺産分割協議書は必ずしも手書き作成する必要はありません。
遺産分割協議証明書って何ですか?遺産分割協議書とは別に作る必要がありますか?
遺産分割協議証明書とは、遺産分割協議が相続人全員の合意により成立したことを証明する文書のことをいいます。
遺産分割協議書は相続人全員が署名押印して作成する書類ですが、遺産分割協議証明書は、遺産分割協議の合意内容を明らかにするために、相続人が単独で作成することができます。
相続人のうちの一人が遠方に居住するなどの場合には、一通の遺産分割協議書を持ち回りで作成するのは非常に手間がかかります。
そのような場合に、相続人が個別に同一内容の遺産分割協議証明書を作成することにより、遺産分割協議が相続人全員の合意により成立したことの証拠資料とすることができます。
必ずしも遺産分割協議書とは別に作成する必要はありませんが、上のようなケースでは作成するメリットがあるといえます。
遺産分割協議書なしでも預金の相続はできますか?
金融機関によって対応は異なりますが、遺産分割協議書がなくても、預金の払戻し手続を行う金融機関もあるようです。
遺産分割協議書の提出が必須か否かは、各金融機関にお問い合わせください。
他にも財産がある状態で不動産のみ記載された遺産分割協議書を作成しても有効になりますか?
遺産が複数ある場合、その遺産の一部についてのみ遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成しても有効と扱われます。
そのため、相続する財産が決まった相続人については、その遺産分割協議書に基づいて、不動産の名義変更や預金の払戻し手続を行うことができます。
もっとも、残りの遺産について、遺産分割協議が未了のまま放置をしておくと、さらに相続人が亡くなり二次相続が発生し、相続関係が複雑になる可能性があります。
できる限り早めに遺産分割協議を行うか、一度に遺産の全てについて遺産分割協議をまとめてしまうことをおすすめします。
遺産分割協議書の捨印は何に使うのですか?押しても大丈夫ですか?
捨印とは、あらかじめ合意書の余白部分に押印しておき、誤字脱字などの訂正が必要になった際に訂正印として利用できるように押しておくものです。
遺産分割協議書にも捨印を押しておくことで、相続人が遠方に住んでいる場合でも、相続人全員が関与することなく、訂正が可能となります。
そのため、遺産分割協議書の捨印を押していただいても、特に不利益になることはありません。
相続人の中に海外在住者がいます。署名や実印、印鑑証明はどうしたら良いですか?
海外在住者の方は、住民票が除票扱いとなるのに伴い、印鑑登録も抹消されてしまうため、そもそも日本で印鑑登録証明書を発行してもらうことができません。
そのような場合、日本の印鑑登録証明書に代わるものとして、署名証明書という書類を用いることになります。
署名証明書は、領事の面前で行われた署名が本人のものに間違いないことを証明するものですので、海外在住者の方であっても、遺産分割協議書に署名を行うことにより、遺産分割協議書を有効に成立させることができます。
遺産分割協議書を無効にするにはどうしたら良いですか?
遺産分割協議書を無効にするためには、基本的には遺産分割協議自体に無効となる理由が必要です。
例えば、遺産分割協議が無効になるケースとして、次のようなものが考えられます。
- 遺産分割協議に参加していない相続人がいた
- 未成年者が遺産分割協議書に参加していた
- 認知症などにより意思能力のない相続人が遺産分割協議に参加していた
- 詐欺や脅迫により、遺産分割協議において合意した相続人がいた
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遺産分割協議書についてお困りの場合には、弁護士にご相談ください
遺産分割協議書は、将来的にトラブルになることを防ぐためにも、事前に内容や作成方法に不備がないか確認しておくことが重要です。
しかし、それぞれの具体的な事情に応じて、遺産分割協議書に記載する内容は異なるため、注意すべきポイントも変わってきます。
遺産分割協議の作成でお困りの方は、お早めに弁護士にご相談されることをおすすめします。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)