遺言書の効力

相続問題

遺言書の効力

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

遺言書は、効力を発生させるためには形式を守る必要があります。法的に有効な遺言書を作成し、効力を発生させるためには、法律で規定されている書式に従って遺言書を作成しなければなりませんし、遺言書によって効力を発生させることができる事項は法律で限定されています。これらについて解説します。

遺言書の効力で指定できること

遺言の内容についても、遺言書に書くことで効力がある事項が法律で定められており、それ以外の事項は遺言書に書いても法的な効力はありません。遺言書の効力で指定できる事項については限定されています。

遺言執行者の指定

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するため法律上必要な手続を行う権限を与えられた者のことです。法律上は、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な権利義務を有する(民法1012条1項)」者と規定されています。

誰にいくら相続させるか

相続分の指定とは、相続人の遺産を取得する割合を定めることです。
相続人が複数人いる場合、法定相続分といって法律で定められた遺産の取得割合にしたがって相続するのが原則です(民法900条)。しかし、被相続人が共同相続人の遺産の取得割合を定めた場合には、被相続人の意思が尊重され、被相続人が定めた取得割合にしたがって相続されます。これを相続分の指定といいます(民法902条1項)。

誰に何を相続させるか

被相続人は、遺言で遺産の分割方法を指定することができます(民法908条)。遺産分割の方法の指定にはいくつかの分割の方法が考えられますが、代表的なものは「妻に甲不動産を相続させる」「子に預金を相続させる」といった特定の相続人に特定の財産を相続させる旨の内容です。

遺産分割の禁止

被相続人は、遺言で遺産分割を禁止することができます(民法908条)。被相続人が相続直後に遺産分割をすることが望ましくないと考えた場合に、このような禁止が行われます。永遠に禁止することはできず、5年を超えない期間内でのみ禁止することができます。なお、期間の指定がない場合、5年間に限り、効力が認められます。

遺産に問題があった時の処理方法

遺産分割によって問題のある遺産を取得した相続人は、他の相続人よりも損をするため、相続は不公平となってしまいます。そのため、相続人間の公平性を保つために、他の共同相続人が問題のある遺産を取得した相続人に対して、問題の程度に応じて損害を賠償する責任を負うことになります(民法911条)。これを担保責任といいます。

生前贈与していた場合の遺産の処理方法

特別受益とは、相続人の中に特別に被相続人から利益を得ていた人がいる場合、その相続人が受けた利益のことをいいます。受けた利益が特別受益と認められると、その相続人の特別受益分について、受益者の遺産取得分が減額されます(民法903条1項)。相続人が被相続人から生前贈与を受けた場合にまで法定相続分に従って遺産分割をしてしまうと、他の相続人との関係でかえって不公平になってしまいます。そこで、相続人の公平性を図るため、特別受益がある相続人の遺産の取得分を減らすことになっています。

生命保険の受取人の変更

生命保険の死亡保険金の受取人を変更する場合、通常は保険の契約者本人が直接保険会社と手続をしなければならないのが原則です。もっとも、保険法の施行により、遺言を利用することによって施行後になされた保険契約の死亡保険金の受取人を変更することができるようになりました。 なお、施工前の保険契約については、保険会社の判断によります。

非嫡出子の認知

内縁の妻との子など婚姻関係にない男女の間に生まれた子を非嫡出子といいます。父から認知されることで法律上の親子関係が成立し、婚姻関係にある男女の間に生まれた子、すなわち嫡出子と同様に相続人になることができます。非嫡出子が認知されることで、他の相続人は自己の相続権を失う又は相続分が減少することになるため、認知する旨の遺言を発見した場合に他の相続人は遺言書を破棄・隠匿することがあります。しかし、遺言書を破棄・隠匿すると、相続人となる資格を失うので注意が必要です(民法891条5号)。

相続人の廃除

被相続人の意思で、ある相続人の相続権を失わせることができ、これを相続人の廃除といいます(民法892条)。被相続人が家庭裁判所に申立てをする生前廃除や、遺言で廃除の意思を示す遺言廃除があります。遺言廃除の場合、遺言執行者が手続を行うことから、遺言執行者を選任しなければなりません。

未成年後見人の指定

未成年後見人とは、親権者がいない未成年者の身上監護や財産管理を、親権者の代わりに行う者のことです。遺言者に未成年の子がおり、遺言者が亡くなることでその子の親権者がいなくなる場合、未成年後見人の選任が必要になります。未成年者本人またはその親族が未成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てるのみならず、未成年者の最後の親権者が遺言で指定することも認められています。

遺言書が複数ある場合、効力を発揮するのはどれ?

複数の遺言書が発見された場合、より作成日が新しいものが有効な遺言書となります。 例えば、2通出てきた遺言書が2通発見された場合、1通が公正証書遺言でもう1通が自筆証書遺言だった場合、自筆証書遺言の作成日の方が新しいのであれば、自筆証書遺言が有効となります。

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします

相続問題ご相談受付

0120-519-116

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
相続問題の経験豊富な弁護士にお任せください

遺言書の効力は絶対か

民法に定められている遺言書の方式に従っていない場合、遺言は無効になります。例えば、自筆証書遺言では、手書き以外の作成、日付の記載がない、代筆での作成、遺言者の署名・捺印がないといった場合には、遺言書が無効となります(民法968条1項)。
その他の無効となる遺言書として、詐欺や強迫によって書かせた遺言書や、作成時に遺言者の意思能力が無い状況で作成された遺言書等も無効になります。

遺言書の内容に納得できない場合

遺言書の内容に納得できない場合、遺言書があったとしても、全ての相続人が合意すれば、遺言で指定された内容と異なる遺産分割を行うことができます。 そのため、遺言書には絶対に従わなければならないわけではありません。

勝手に遺言書を開けると効力がなくなるって本当?

遺言書の存在が判明したら、開封してはならず、家庭裁判所の検認という手続が必要になります。検認をしていない場合、遺言書の内容に基づいた相続の手続ができません。もし勝手に遺言書を開封した場合、5万円以下の過料という行政処分が科せられるおそれがあります(民法1005条)。 なお、勝手に遺言書を開封してしまったとしても、遺言書が無効になることはありません。

効力が発生する期間は?

遺言の効力発生時は遺言者が亡くなった時が原則です(民法985条)。そして、この効力発生期間に有効期限はなく、遺言書の効力は被相続人が死亡して以降継続します。

認知症の親が作成した遺言書の効力は?

遺言書には意思能力といって自らの行為の動機と結果とを認識し、この認識に基づいて正常な意思決定をすることができる能力が必要です。もっとも、遺言者が認知症だからといって、作成した遺言書が無効になるとは限りません。遺言者の認知症の症状の程度や遺言に記載されている内容を考慮したうえで、遺言書の作成の可否について判断されます。例えば、認知症の症状が軽度であったり、遺言の記載内容が比較的簡易なものであったりした場合には、遺言書は有効であると認めてもらえる可能性はあります。逆に、症状が重度であれば無効となることもあります。

記載されていた相続人が亡くなっている場合でも効力を発揮するの?

遺言を残した人が亡くなる前に、遺贈を受ける人が亡くなっていた場合には、遺贈の効力は発生しません(民法994条1項)。この場合、遺贈の対象となっていた遺産は、相続人間で遺産分割されることになります。 もっとも、遺言者より先に受遺者が死亡している場合には、受遺者の子に遺贈するというような記載を遺言書にしていた場合、効力が発生することになります。

遺留分を侵害している場合は遺言書が効力を発揮しないことも

兄弟姉妹とその代襲者を除く法定相続人に対して保障されている最低限の相続分のことを遺留分といいます。遺言書があったとしても、遺言で遺留分を侵害することはできません。例えば、「友人Aに遺産をすべて遺贈する。」という遺言を残したとしても、法定相続人が遺留分侵害額請求をすることができ、それによって遺言は遺留分を侵害している限度において効力を失います。なお、遺言で遺留分が侵害されている場合、遺留分侵害額請求を行うことで遺留分が確保されることになり、自動的に遺留分が確保されるわけではないことに注意が必要です。

遺言書の効力についての疑問点は弁護士まで

遺言書の作成に不安を抱かれている方は、ぜひ弁護士に相談・依頼することをご検討ください。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
大阪弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。