監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
不動産を利用することによって、相続税の負担が軽くなる可能性があります。
この記事では、不動産が相続税対策に効果的な理由や、具体的な相続税対策の方法、相続税対策を行う場合の注意点などについて、詳しく解説していきます。
目次
不動産が相続税対策に効果的な理由
相続税は、相続により相続人が取得した財産の価額に基づいて計算されるところ、相続財産は時価評価が原則であり、相続財産が現金・預貯金の場合には、その金額がそのまま相続税の課税対象となります。
他方で、不動産の評価方法は時価評価とは異なっており、一般的に、不動産の評価額は時価に比べて低くなります。
そのため、現金・預貯金ではなく不動産で財産を持っておく方が、相続財産の評価額が下がることになり、相続税対策に効果的です。
不動産を利用した相続税対策のメリット
上記のとおり、相続税の計算の基礎となる財産の評価額は、現金・預貯金で相続するより不動産で相続した方が一般的に安くなるため、現金・預貯金から不動産へ資産の組替えを行っておくことで、相続税の負担が軽くなります。
また、購入した不動産を賃貸物件にする場合には評価額がさらに低くなるため、相続税の負担をより軽くすることができます(下記5.2参照)。
不動産を利用した相続税対策のデメリット
購入資金を借り入れてまで不動産を購入すると、相続税の負担を軽減することはできても、総合的にみて損をする可能性があります。
損をするケースとして、例えば、購入後に不動産価格が値下がりするケースや、賃貸物件にする際に空室になってしまい、家賃収入が入ってこないケースがあります。
また、相続人はプラスの資産だけではなく、借入金も相続することになります。
そのため、購入資金を借り入れてまで不動産を購入するかについては、慎重な検討が必要となります。
相続税の計算における不動産評価方法
土地の評価方法
相続税の計算において、土地の評価額は、路線価方式又は倍率方式で計算されます。
路線価方式の算式は、路線価×各地調整率×地積です。土地の路線価は、公示価格の8割程度を目安に設定されています。
倍率方式の算式は、固定資産税評価額×評価倍率です。固定資産税評価額は、公示価格の7割程度とされています。
なお、賃貸物件の土地については、貸家建付地として、次の算式で評価額が求められます。
自用地としての価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
建物の評価方法
建物は、固定資産税評価額によって評価されます。
賃貸物件については、次の算定式で評価額が求められます。
自用地としての価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
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不動産を利用した相続税対策
不動産を購入する
上記4で述べたとおり、土地の路線価は公示価格の8割程度、固定資産税評価額は公示価格の7割程度で設定されています。
そのため、不動産を購入して資産の組替えを行うことで、財産を現金・預貯金で持っておくよりも、相続財産として計上される価額が少なくなります。
また、当該土地が小規模宅地等の減額特例の対象になる宅地等である場合には、さらに相続税が減額される可能性があります(下記5.4参照)。
不動産を賃貸物件にする
上記4で述べたとおり、賃貸物件については、さらに相続税評価額が下がります。
そのため、既に所有している不動産を賃貸物件にしたり、新たに不動産を購入して賃貸物件にしたりすることも、相続税対策として考えられます。
ただし、相続税評価額の算定の際には「賃貸割合」を用いるところ、相続開始時点で空室になっている部屋に関しては貸家として計算がされないため、注意が必要です。
不動産を法人化する
不動産賃貸業を個人で行っている場合には、不動産を法人化することで相続税の負担を軽くできる可能性があります。
相続税は個人の財産にかかるものであるところ、家賃収入が個人ではなく法人に入ってくることによって、個人の預金の増加を抑制することができるため、相続税の節税につながるのです。
ただし、法人化することで、相続税以外の税金の支払義務が生じるため、収入が少ない場合、法人化で必ずしも節税が期待できるとは限りません。
法人化に当たっては、慎重な検討が必要です。
「小規模宅地等の特例」を利用する
貸家の宅地が貸付事業用等として一定の要件を満たせば、土地評価額のうち200㎡まで50%相当額の評価額を減額することができます(租税特別措置法69条の4)。
また、当該宅地が特定事業用宅地等又は特定同族会社事業用宅地等に当たる場合には、土地評価額のうち400㎡まで20%相当額の評価額を、特定居住用宅地等に当たる場合には、330㎡まで20%相当額の評価額を、減額することができます。
なお、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は、貸付事業用宅地等又は特定事業用宅地等には該当しません。
すなわち、駆け込み的な相続税対策はできないということです。
不動産を生前贈与する
相続時精算課税制度を利用して不動産を生前贈与することも、相続税対策の一つです。
この制度を利用すると、年間110万円を除いた累計2500万円までの贈与については贈与税がかからず、生前贈与の税金は、相続税として相続時にまとめて精算することができます。
この制度を利用した不動産の生前贈与が節税につながるのは、贈与時よりも相続時の方が不動産の価格が上昇した場合です。贈与した不動産の評価は、贈与時に行われるためです。
将来価値が上昇する可能性が高い不動産があれば、相続時精算課税制度を利用して生前贈与することを検討されるとよいでしょう。
相続した不動産を売却する
相続又は遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を、相続税の申告期限の翌日から3年(相続開始の翌日から3年10ヶ月)が経過するまでに譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができます。
不動産を譲渡する際には譲渡所得税が課されるところ、
譲渡所得=譲渡価格-(取得費+譲渡費用)
で計算されるため、相続税額のうち一定金額を取得費用に加算することによって、譲渡所得が減額され、譲渡所得税を節税することができます。
そのため、相続した不動産で利用予定のないものについては、早めに売却することが望ましいといえます。
不動産で相続税対策を行う場合の注意点
明らかに相続税対策とみなされると無効になる
令和4年4月19日、相続税における財産評価基本通達(以下「本件通達」といいます。)総則6項をめぐる最高裁判決が出されました。
この事案では、被相続人が、相続税対策として多額の金銭の借入れ及び高額な不動産の購入を行っていました。この借入れ・購入がなければ相続税は6億円を超えるものであったにもかかわらず、本件通達に基づき、上記借入れ・購入によって相続税額が0円となりました。
最高裁は、本件通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、当該財産の価額を本件通達に基づく評価額を上回る価額によるものとしても、平等原則に違反しないとして、納税者敗訴の判決を下しました。
このように、明らかに相続税対策とみなされると無効になる可能性があるので、注意が必要です。
相続した不動産を3年以内に売却しない
上記のとおり、相続又は遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を、相続税の申告期限の翌日から3年(相続開始の翌日から3年10ヶ月)が経過するまでに譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を、譲渡取得税の算定の際に譲渡資産の取得費に加算することができます(上記5.6参照)。
裏を返せば、相続から3年以内に不動産を売却しないと、譲渡取得税の算定の際に相続税額を取得費に加算することができません。ご注意ください。
不動産を活用した相続税対策でお悩みなら、ご相談ください
不動産を活用した相続税対策としては様々なものがありますが、それぞれについて、メリット・デメリットの両面があります。
そのため、どの対策をとるにも慎重な検討が必要であり、専門家のアドバイスを受けていただくのが安心です。
不動産を活用した相続税対策でお悩みなら、ぜひ弁護士法人ALGへご相談ください。

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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
