監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
限定承認とは、相続によって取得した財産の範囲内で、被相続人の借金などを弁済する相続方法です。仮に被相続人の多額の借金が後から判明しても、相続人自身の財産から支払わずに済む点に大きなメリットがあります。
一方で、限定承認には、相続人全員で手続きしなければならない、税金が発生する場合がある、清算手続きが複雑であるなどのデメリットがあります。
この記事では、限定承認の主なデメリットと、それでも限定承認を検討した方が良いケースについて解説します。
限定承認の5つのデメリット
相続人全員で限定承認する必要がある
相続人が複数いる場合、限定承認は共同相続人全員が共同して行わなければなりません。
そのため、共同相続人のうち1人でも反対している場合には、限定承認を選択できません。
相続人同士が疎遠で連絡が取れない場合や、相続方針について意見が対立している場合には、合意を得ることが難しいケースもあります。
相続人全員とはどの範囲?
ここでいう「相続人全員」とは、限定承認の申述時に共同相続人となっている方全員です。
配偶者と子が相続人であれば、その全員で手続きを行います。
もっとも、相続放棄をした人は、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
そのため、相続放棄をした方を除く共同相続人全員で限定承認を行うことは可能です。
相続人の範囲が不明な場合には、被相続人の出生から死亡までの戸籍などを収集し、相続人を確定させる必要があります。
時間と手間がかかる
限定承認では、まず、相続財産と相続人を調査し、財産目録や申述書を作成して、家庭裁判所に申述しなければなりません。
申述が受理された後も、債権者への公告・催告、相続財産の換価、債権者への弁済などを行う必要があります。相続財産に不動産や事業用資産が含まれている場合や、債権者が多数いる場合には、手続きがさらに複雑になります。
申述が受理されれば終了する相続放棄とは異なり、その後の清算まで必要になることが、限定承認の大きな負担です。
税金がかかる場合がある
限定承認をすると、所得税法上、一定の資産について、被相続人から相続人へ相続開始時の時価で譲渡があったものとみなされます。
例えば、被相続人が取得した当時より価値が上昇した土地や株式がある場合、その含み益に対して譲渡所得税が発生する可能性があります。この所得税は被相続人の所得として扱われるため、相続人が準確定申告を行う必要があります。
ただし、現金や預貯金を含め、すべての相続財産について必ず所得税がかかるわけではありません。資産の種類、取得費、相続開始時の時価などを個別に確認する必要があります。
税金の特例が利用できない場合がある
前述のとおり、限定承認をすると、亡くなった方が死亡した時点で財産を売却したものとみなされることがあります。このため、本来であれば不動産を売却した際に利用できる税金の優遇制度(特例)が使えなくなる場合があります。
例えば、自宅の売却で利用できる3,000万円特別控除などは、一定の場合に適用を受けられなくなる可能性があります。その結果、本来より多くの所得税が発生することがあります。
そのため、相続財産に含み益のある自宅や土地、株式などがある場合は、限定承認を選ぶ前に税理士等へ相談し、所得税や利用可能な特例について確認することが重要です。
債務清算手続きが煩雑
限定承認が受理された後は、相続債権者や受遺者に対して、限定承認をしたこと及び一定期間内に請求を申し出るべきことを官報で公告します。
判明している債権者などには、個別の催告も必要です。
その後、相続財産を換価し、法律上の優先順位や債権額に従って弁済します。
弁済の順序や方法を誤り、他の債権者に損害を与えた場合には、限定承認者が責任を負う可能性もあります。
専門的な判断を伴うため、相続人だけで正確に進めることは容易ではありません。
デメリットがあっても限定承認をすべき3つのケース
プラスとマイナスの財産がどのくらいあるかわからない
被相続人と長期間疎遠であった場合や、被相続人が事業を営んでいた場合には、預貯金や不動産だけでなく、借入金、保証債務、未払金などがあることを短期間で全て把握できないことがあります。
限定承認をしておけば、後から多額の借金が判明しても、相続によって得た財産の範囲を超えて弁済する必要はありません。
また、清算後に財産が残れば、その残余財産を取得できます。
もっとも、相続財産や債務の調査に時間を要するだけの場合には、デメリットもある限定承認ではなく、熟慮期間の伸長申立てを行うことも検討すべきです。
実家を残すなど債務があっても相続したい財産がある
相続放棄をすると、借金だけでなく、実家の土地や建物、預貯金などプラスの財産も相続できません。
これに対し、限定承認では、相続財産を換価して債権者への支払に充てることが原則であるものの、相続人には、特定の相続財産について家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払うことで、その財産を取得できる制度があります。
そのため、先祖代々の土地や実家など、手放したくない財産がある場合には、それらを残すことができる可能性があります。
もっとも、評価額相当の資金や鑑定費用等を準備する必要があります。そのため、利用できるかどうかは相続財産の内容や資金状況を踏まえて検討する必要があります。
家業を継ぎたい
家業に必要な店舗、工場、土地、機械設備などが相続財産に含まれている場合、相続放棄をすると、それらを引き継げなくなる可能性があります。
限定承認を利用し、必要な事業用財産について家庭裁判所の選任した鑑定人による評価額を支払えば、競売を止めて取得できる場合があります。これにより、相続債務の負担を相続財産の範囲にとどめながら、事業に必要な資産を確保できる可能性があります。
もっとも、事業用財産を取得するためには評価額に見合う資金を準備する必要があります。また、事業が継続可能かどうかも別途検討しなければなりません。
そのため、事業の将来性や資金計画も踏まえて限定承認をするか判断することが重要です。
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限定承認の手続き
限定承認をする場合は、原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に被相続人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所へ申述をする必要があります。
この際、預貯金や不動産、借金などの相続財産をまとめた「相続財産目録」を提出します。
申述後は、官報公告、判明している債権者への催告、財産の換価、債権者などへの弁済、残余財産の処理を進めます。詳しくは「限定承認の手続き」の解説記事をご覧ください。
限定承認について詳しく見る限定承認の手続きにかかる費用
限定承認の申述には、被相続人1人につき800円分の収入印紙と、家庭裁判所が定める連絡用郵便料が必要です。このほか、戸籍謄本などの取得費用、官報公告費用、財産を換価する費用などがかかります。
実家や事業用資産を残すために鑑定人の評価を受ける場合には、鑑定費用も必要です。
弁護士や税理士に依頼する場合は、別途専門家報酬が発生します。
具体的な郵便料や必要書類は裁判所ごとに異なり、専門家報酬も依頼先や業務範囲ごとに異なるため、事前に確認しましょう。
限定承認のデメリットに関するQ&A
限定承認の手続きは難しいですか?
限定承認を相続人自身で行うことは制度上可能です。
しかし、相続人と財産の調査、財産目録の作成、家庭裁判所への申述だけでなく、官報公告、債権者への催告、財産の換価、債務の弁済まで行わなければなりません。
特に、不動産、事業用資産、税金、複数の債権者が相続に関係する場合には、法律や税務に関する専門的な判断が必要です。
手続きに誤りがあると、他の債権者への責任が生じる可能性もあるため、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
とりあえず限定承認をしておけば、後から借金が見つかっても大丈夫ですか?
適法に限定承認を行い、清算手続きを正しく進めていれば、後から借金が判明しても、相続によって得た財産を超えて弁済する義務は原則として負いません。
もっとも、「とりあえず」選んでおけば大丈夫とも限りません。
申述前に相続財産を処分した場合や、限定承認後に財産を隠したり財産目録へ悪意で記載しなかったりした場合には、単純承認とみなされることがあります。
また、税負担や清算費用が生じる場合もあるため、選択前の調査が重要です。
限定承認すべきか迷う場合は弁護士法人ALGへご相談ください
限定承認は、借金を相続財産の範囲内で清算しながら、実家や事業用資産などを残せる可能性のある制度です。一方で、相続人全員の協力、3か月の申述期限、税金、官報公告、財産の換価・弁済など、検討すべき事項が多くあります。
財産状況によっては、限定承認よりも単純承認や相続放棄が適している場合もあります。弁護士法人ALGでは、相続人や相続財産の状況を踏まえ、相続方法の選択から申述後の清算までサポートいたします。
限定承認を選ぶべきかお悩みの方は、なるべく早い段階でご相談ください。

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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
