訴訟
監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
目次
訴訟の進行
(1)審理運営方針について
医療訴訟は、他の訴訟とは異なる運用も多いです。大阪地方裁判所では「大阪地方裁判所医事部の審理運営方針」(判例タイムズ1335号5頁)として方針が示されています。審理運営方針や経験に基づいて重要なポイントを説明します。
他の地方裁判所では裁判体ごとに異なる運用が行われていますが、大阪地方裁判所の審理運営方針に記載された方法を理解していれば十分に対応可能です。
(2)訴訟提起前の協力医の確保
患者や遺族が訴えを提起する場合には、裁判所は提訴前に「協力医のバックアップを得て、十分な準備をする」ことを希望しています。裁判官にもよりますが、一般的に医師の意見を重視する傾向があることは明らかですので、原則として協力医の意見書を取得できる状況にしておくべきです。
(3)医療記録の準備
診療録や救急搬送記録を漏れなく取得し、原則として全て提出します。被告の数が多い場合には、代理人弁護士が就任した後に医療記録を送ることもあります。長期入院により記録が膨大であるが、大部分は争点と明らかに関係がない場合等には、提訴後に裁判所に事情を説明して相談します。
(4)管轄
管轄は、患者や遺族の住所地又は病院の所在地を管轄する地方裁判所です。大阪府内の事件は、通常事件であれば岸和田支部に管轄がある場合でも、専門性が高いため大阪地方裁判所の本庁(大阪市北区西天満)の医療集中部が担当しています。なお、医療訴訟を担当する代理人の事務所が大阪にある等の事情で、双方が合意の上で大阪地方裁判所を選択することもあります。
(5)訴状作成
患者側は、損害に繋がる過失を選択し、医学文献や意見書により過失が認められる理由を訴状に記載します。損害が生じた原因や経緯(機序)についても極力詳細に記載します。過失がない場合に運命が変わったか否か(因果関係)という点も論拠を示して記載します。
(6)病院側の反論
病院側は裁判が始まってから2~3か月程度のうちに、訴状に記載されている事実を認めるかどうかを明らかにして、反論を行います。裁判所としては、積極的に医療行為が相当であることや、過失行為から損害が生じたとは言えないことについて主張することを希望しています。
(7)争点整理案
双方の当事者が交互に反論を繰り返していくうちに重要な争点が明らかになってきます。裁判所は、当事者の主張の主要な部分を要約して、争点整理案を作成します。争点整理案の作成時期は裁判体によって異なります。
大阪地方裁判所でも事案の理解が容易な場合には争点整理案は作成されません。また、他の地方裁判所では、争点整理案を作成しない場合が多いです。
(8)診療経過一覧表
診療経過一覧表を病院側が作成し、双方の認否を記載します。最近はMicrosoft Teamsを利用してエクセルデータを共有することもあります。
(9)証拠提出方法
証拠はA、B、Cの3種類に分けて提出します。大まかに説明すると、カルテがA、医学文献がB、その他がCという分類です。
(10)尋問
双方の主張が出揃ったら、陳述書を提出して、証人と当事者の尋問を行います。
(11)専門委員
本来は専門的知見について説明を受けるための制度ですが、大阪地方裁判所では鑑定に近い形で利用されることがあります。裁判所が選定した医師が、質問事項に書面で回答した上で、口頭の質問に回答します。書面及び口頭による回答の録音を証拠として提出します。この運用は双方当事者が同意している場合に行われているようです。鑑定と比較すると当事者の費用負担がないことがメリットです。
(12)鑑定
鑑定には様々な方法がありますが、大阪地方裁判所では鑑定人の選任が困難であるため単独書面鑑定を中心とした運用となっています。双方当事者の意見を踏まえて定めた質問事項と医療記録を鑑定人に送付して、意見書を取得します。その上で再質問を行って再度意見書を取得します。
訴訟の結果
訴訟では随時和解をする機会があります。どちらか一方が有利な状況が明らかになれば和解を進めることが多いです。
判決が言い渡された場合には、判決内容に不服がある当事者は2週間以内に控訴することができます。
この記事の執筆弁護士
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大阪弁護士会所属
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保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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