医療事件の流れ
監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
目次
患者側の対応
(1)弁護士への相談
患者や遺族は早期に弁護士に相談するべきです。医療過誤事件は他の弁護士業務と全く異なるため、医療過誤事件の経験が豊富な弁護士に相談するべきです。地域によっては近隣に医療過誤に習熟した弁護士がいない場合もありますし、弁護士同士の人付き合いの関係で大病院を相手にする事件を受けてくれる弁護士を探すことに苦労することもあります。オンラインで打ち合わせすることも容易になっていますので、自宅からの距離は遠くても、経験を重視して弁護士を選定すると良いと思います。
(2)証拠の確保
手術動画が問題となる事案や、紙カルテの病院の場合には、証拠保全を申し立てることも検討します。証拠保全が不要な事案では、病院に必要書類を提出して記録を任意に開示してもらいます。開示された記録に漏れがある場合には指摘して、再度開示を求めます。
(3)医療調査
協力医の意見や医学文献を参考にして過失と因果関係の有無を判断します。
事案によっては法的責任を立証する見込みが立たないため、この時点で断念することが合理的と判断される場合もあります。
法的責任が存在する可能性が十分にある場合には、訴訟・調停・交渉のいずれの手続が適しているかを判断します。
(4)民事訴訟
訴訟が提起されると、1年以上争点整理が行われることが多いです。争点整理とは、双方の当事者が自らの主張や相手方に対する反論を書面で提出することにより、その事件の争点を明らかにする手続のことです。裁判所によっては、争点整理案や時系列表を作成して、問題の所在を共有することもあります。
その後、証人や当事者の尋問を行った上で、判決が言い渡されます。ただし、裁判の過程で和解が成立することも多いです。
専門的知見を取り入れるために、専門委員や鑑定という手続により、裁判所が選んだ医師の意見を聞くこともあります。大阪地方裁判所では、専門委員の鑑定的利用という特殊な運用も行われています。
病院の対応
(1)事故発生直後の対応
当然ながら患者に対して医療上最善の処置を行うべきです。必要に応じてエマージェンシーコールを使用して人員を確保します。家族にも直ちに連絡します。患者や家族に対して誠意をもって事実を説明します。院内の規定に従って医療安全管理者等に報告します。
処置が一段落したら経過を正確に記録します。時間が経ってから診療録に追記した場合には、真実であっても裁判所に認めてもらえないことがあるため、速やかに記録化するべきです。
病理解剖、死亡時画像診断、異状死届出、保健所への報告、医療事故調査支援センターへの報告等の必要性を院内で検討して決めます。
(2)院内調査
医療事故調査委員会の開催の有無、外部委員の召集の有無等を決めて、客観的な事故調査を行います。
予期せぬ死亡の場合には、院内調査の結果を医療事故調査支援センターに報告します。
(3)患者・遺族への説明
口頭又は書面により患者や遺族への説明を行います。
医療事故調査支援センター
予期せぬ死亡と判断される場合には、病院から医療事故調査支援センターに対する報告が義務付けられています。院内調査の結果を報告した後に、医療事故調査支援センターも調査を行います。
刑事・行政処分
事件性が顕著な場合には早期に警察が捜査を開始する場合がありますが、頻度は高くありません。体表の検案の結果「異常死」と認められる場合には、警察に対する届出が義務付けられていますが、届出が行われることは稀です。
捜査機関は、民事訴訟が終結した後に実質的な捜査を開始する場合も多いです。多数の専門医の意見を取得して、法的責任があることについて意見が一致している場合には、検察官が起訴します。刑事裁判を経て判決が言い渡されます。医療過誤の場合に実刑判決(刑務所に収監される)が言い渡されることは少ないです。
有罪判決が言い渡された場合には医師免許等に関する行政処分の審理が開始します。医師は報告書を提出したり、意見や弁明の聴取の手続において、自らの主張を伝えることができます。医道審議会が行政処分を決めて厚生労働大臣が行政処分を下します。
この記事の執筆弁護士
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大阪弁護士会所属
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保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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