説明義務について
監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
- 説明義務
説明義務について
説明義務は、医療従事者らが診療契約に基づく報告義務(民法656条が準用する同法645条)として患者に対して負っている義務と解されており、患者が当該医療行為の利害得失を理解した上で、同医療行為を受けるかどうかの自己決定を行うために課された極めて重要な義務といえます。
なお、説明義務は、治療方針や施術の決定にあたって、事前になされることが予定されていますが、医療従事者らは、治療終了後も診療契約に基づく報告義務として、診療の経過及びその結果を患者に対して報告する義務(以下、「顛末報告義務」といいます。)を負っていると解されています。
説明義務の内容、範囲
医療従事者らは、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の医療行為の内容、それに付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後等について説明すべき義務があると解されています(最高裁平成10年(オ)第576号平成13年11月27日判決)。
一般的に、実施予定の医療行為が医療水準として確立したものである場合、医療水準として未確立の他の療法については、医療従事者らは説明義務を負うものとはされていません。
しかし、未確立の療法であっても、「少なくとも、当該療法が少なからぬ医療機関において実施されており、相当数の実施例があり、これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについては、患者が当該療法の適応である可能性があり、かつ、患者が当該療法の自己への適応の有無、実施可能性について強い関心を有していることを医師が知った場合などにおいては、たとえ医師自身が当該療法について消極的な評価をしており、自らはそれを実施する意思を有していないときであっても、なお、患者に対して、医師の知っている範囲で、当該療法の内容、適応可能性やそれを受けた場合の利害得失、当該療法を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務がある」とされています(上記判決)。
説明義務の対象となる者
説明を行う対象者は、基本的には診療契約の当事者たる患者本人となります。
医師らは、患者本人に対し説明を行えば、説明義務を果たしたことになりますので、必ずしも患者家族に対し説明を行う必要はありません。
しかし、未成年者、高齢者、重度の精神障害者、患者本人が昏睡状態である等、患者本人が説明の内容を理解し、治療方針に関する自己決定の判断が困難である場合には、患者家族に対して説明を行わなければなりません。
また、治療後に患者本人が死亡した場合の顛末報告義務については、患者の遺族に対して負うと解されています。
説明義務が不十分であった場合の損害について
説明義務が果たされず、患者が施術の内容、必要性、リスク等を認識していないまま施術がなされ、患者が死亡又は重度の後遺症を負った場合に、患者が死亡又は重度の後遺症を負ったことによる損害(治療費、休業損害、逸失利益、慰謝料等)まで賠償されるかが問題となります。
多くの裁判例では、説明義務違反がなければ当該医療行為を受けない選択をした高度の蓋然性が認められないとして生命健康侵害までの損害は認められておらず、自己決定権を侵害されたこと自体の慰謝料のみが損害となっています。
なお、美容整形のような場合には、説明義務違反がなければ施術を行っていなかったとして治療費等も損害として認められているケースがあります。
最後に
医療従事者らと患者のトラブルの多くは、患者やその家族が医師より十分な説明がなされていないと感じることに端を発してます。
相談に来られる方が、「従前に受ける治療の必要性やその危険性について医師より何の説明もなされていなかった。」と仰るケースは少なくありません。
実際には、施術同意書等が患者らに交付され、その中で合併症の説明等がなされていますが、患者やその家族には十分伝わっていないのだと思います。
医療従事者の方々は、患者との信頼関係を失い、無用なトラブルを回避するためにも、平易な言葉で説明を行い、理解ができていないようであれば、再度説明を行うことも必要でしょう。
また、患者の方々は、医師の説明について納得がいかない場合には、どのような部分について納得がいっていないのかを明確に伝えることが重要です。特に異議を述べない場合には、診療録に「患者が十分に理解を示していた。」というような記載が残ってしまうこともあります。
説明義務は、患者の自己決定に係る重要なものであり、法的な責任を負うかどうかにかかわらず、十二分に果たされることが望まれます。
この記事の執筆弁護士
-
大阪弁護士会所属
-
保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
医療過誤のご相談・お問い合わせ
初回法律相談無料
※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。