監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
いらない土地や空き家を相続すると、その不動産の管理や固定資産税の負担が生じます。
相続にあたって土地や建物の相続放棄をすることは可能であるのか、また、相続放棄するメリット・デメリット、注意点などを以下で解説します。
目次
土地や建物などの不動産は相続放棄できるのか?
空き家問題などに代表される、手のかかる不動産を承継したくない場合には、相続放棄することで、その不動産を取得しないことができます。
相続放棄すると、相続財産は次順位の法定相続人に移転します。
法定相続人とは、民法で相続人として定められた者をいい、故人の子や配偶者等がその典型例です(民法886条~895条参照)。
相続放棄した者は、相続財産に関する権利義務から解放されますので、固定資産税を支払う必要はありません。また、基本的には不動産を管理する義務もなくなります。
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相続放棄せずに土地を所有し続けるリスクとは?
相続放棄せずに土地を所有する場合には、以下のようなリスクが想定されます。
固定資産税を支払わなければならない
不要な土地であったとしても、その土地にかかる固定資産税を毎年支払わなければなりません。
固定資産税は所有者に納税義務が課されるため(地方税法343条)、土地や建物を相続した人は当然に納付義務を負います。
空き家問題と固定資産税について
近年、全国的に空き家の件数が増えており、国や自治体においても問題視されています。
平成26年11月27日には「空家等対策特別措置法」が公布され、空き家等に関して税制上の措置が定められました。
空家等対策特別措置法では、倒壊の危険があったり衛生上有害であったりするような空き家等を「特定空家等」と定義し、特定空家等に当たる場合には、固定資産税の特例措置(人の居住の用に供する家屋の敷地に適用される住宅用地特例)が解除するものとしています。200㎡以下の部分については固定資産税が6倍に、200㎡を超える部分については固定資産税が3倍になります。
共有名義にするとトラブルに発展することも
相続人の間で誰が土地や建物を取得するのか決まらないと、相続人全員の共有となります。
共有財産を処分(売却など)する際は、共有者全員の同意が必要となるため、土地建物の帰趨について揉めるケースがしばしばみられます。また、土地建物を処分するまでの管理費や固定資産税等の費用面でもトラブルが生じやすくなります。
土地を相続放棄する際の注意点
土地や建物を取得しないため、相続放棄する際には以下の点にご注意ください。
土地だけ相続放棄することはできない
不要な土地だけを相続放棄することはできません。
相続放棄は、故人である被相続人の遺産に関する一切の権利義務を放棄することをいいます。
このため、財産の一部を選んで相続放棄する、といったことはできません。
土地を相続放棄する場合には、その他の預貯金や株式などの遺産もすべて放棄することになります。
相続放棄しても土地の管理義務は残る
相続人は、相続放棄をすることで、土地の所有権を放棄することはできますが、その土地の管理義務までは放棄することができません。
相続放棄した土地や建物は、相続放棄した人が、他の相続人又は相続財産の清算人に引き渡すまでの間、管理する義務を負ったままとなります(民法940条1項)。
相続財産の清算人は、利害関係人等の請求によって、家庭裁判所が選任します(民法952条1項)。
相続放棄した人は、他の相続人又は相続財産の清算人が、土地等を管理できる状況になるまで、管理を継続しなければなりません。
土地の名義変更を行うと相続放棄できなくなる
土地の名義変更をすると、相続財産を処分したことになり、相続放棄をすることはできなくなります。
というのも、一部であっても相続財産を処分すると、相続を単純承認したものとみなされることになるからです(民法921条1号)。
単純承認とは、被相続人の一切の権利義務を承継することをいい(民法920条)、一旦単純承認が成立すると、以降の相続放棄は認められなくなります(民法919条)。
相続放棄には3ヶ月の期限がある
相続放棄は、「相続開始を知ってから3か月以内」に行わなければなりません(民法915条1項)。
被相続人の財産状況を調査するのに時間がかかる場合など、3か月の期間内に相続放棄をするかどうか決めることが難しい場合、家庭裁判所に申請することで熟慮期間を延長することができます(民法915条1項但書)。
相続放棄した土地はどうなるのか?
法定相続人全員が相続放棄し、相続人不存在の場合において、特別縁故者(相続人以外の者で、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養監護に努めた者などをいいます。民法958条の2)に分与されなかった相続財産は、国庫に帰属し、国の財産となります(民法959条)。
相続人不存在については、弁護士や司法書士などの第三者を相続財産の清算人に選任し、その土地に相続人がいないことを法的に確定させる必要があります。
なお、「相続土地国家帰属法」が2023年4月27日に施行されます。これにより、申請者が土地管理費相当額の負担金を納付することで、相続又は遺贈により取得した土地を国庫に帰属させる制度が創設されます。
土地を相続放棄する手続きの流れ
土地を相続放棄するにあたっては、以下の流れで手続が進みます。
①戸籍等の必要書類を市町村に取得申請するなどして集める
②家庭裁判所に相続放棄の申述書及び申立添付書類(必要書類)を提出する
③家庭裁判所から届いた書類(被相続人の死亡日を知った時期や相続放棄するに至った理由などを問う質問状等)に回答し、返送する
④相続放棄申述受理通知書が届いたら手続完了
なお、相続人が多数に上るケースでは、①必要書類の収集に時間がかかることがありますので、なるべく早くに準備しておくことが肝要です。
相続放棄の手続き方法について相続放棄以外で土地を手放す方法はある?
相続財産に預貯金や株式等がある場合のように、土地以外のプラスの財産が多い場合など、相続放棄をしたくないケースがあります。
そのような場合には、土地を含めた遺産の相続を承認したうえで、寄付や譲渡等の処分をして、手放すことになります。
土地を相続する場合は、相続登記(不動産の名義変更)が必要となるため注意が必要です。
売却する
処分方法としては、土地の売却が一般的です。
もっとも、土地が田舎にあるなどの立地面に問題がある場合や、古い家屋が建っているなどの処分費用が掛かりそうな場合には、買い手が見つからないこともあります。
そういった場合には、価格を下げて売却したり、取壊し費用をかけて更地にしてから売却することが考えられます。また、自分で相手を見つけることが困難である場合には、不動産会社に仲介を依頼することや空家バンクに登録するなどの方法を検討しましょう。
寄付する
また、不要な土地を寄付することも可能です。
寄付先としては、①自治体、②個人、③法人が考えられます。
なお、財務省のウェブサイト(https://www.mof.go.jp/faq/national_property/08ab.htm参照)によると、国に対して寄付の申出があった場合、土地等については、国有財産法第14条及び同法施行令第9条の規定により、各省各庁が国の行政目的に供するために取得しようとする場合は、財務大臣と協議の上、取得手続をすることとなりますが、行政目的で使用する予定のない土地等の寄付については、維持・管理コスト(国民負担)が増大する可能性等が考えられるため、これを受け入れないものとされています。自治体に寄付する場合にも、問い合わせが必須です。
また、②個人や③法人への寄付には贈与税がかかることがあるため、別途注意が必要です。
土地活用を行う
不要な土地を処分するほかにも、その土地を有効活用することも考えられます。
例えば、賃貸物件を建築して賃料収入を得ることや、トランクルームを経営すること等が挙げられます。
立地さえよければ安定的に収益を得ることも見込めますので、土地を処分する前に一度、その土地に利用方法があるか検討するべきでしょう。また、その際には土地の立地調査をしてもらうことも有益です。
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土地の相続放棄に関するQ&A
被相続人から生前贈与された土地を相続放棄できますか?
相続人が、被相続人から生前贈与で受け取った土地については、相続の対象となるものではないため、相続放棄によって所有権を手放すことはできません。
生前贈与とは、被相続人である故人が、生前に自己の財産を子や親族その他第三者に無償で譲り渡すことをいいます。被相続人が亡くなる前に、被相続人の財産から移転し、被相続人の死亡時にも遺産に残っていないものは、相続財産にはならないので、相続放棄の対象ともなりません。
なお、生前贈与をした場合には贈与税の申告が必要となるため、注意が必要です。
土地の共有持分のみを相続放棄することは可能ですか?
相続放棄によっては、特定の財産だけを選択して放棄したり承認したりすることができません。
したがって、土地が相続人間で共有となった場合、相続人の一人が自分の所有権の割合(これを「共有持分」といいます。)のみを相続放棄することはできないのです。
農地を相続放棄した場合、管理義務はどうなりますか?
農地の所有権を相続放棄した場合についても、その農地の管理義務は残ってしまいます。
新たな相続人等が管理できる状況になるまで、相続放棄した人は農地の管理をしなければなりません。
土地を相続放棄するかどうかで迷ったら、一度弁護士にご相談ください。
相続放棄すれば固定資産税を負担する必要はなくなりますが、管理義務は残ってしまいます。
相続放棄すべきかどうかで迷ったら、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
資産や負債の財産調査を行い、必要に応じて相続放棄の熟慮期間を延長するなど、ご依頼者様の手続をサポートいたします。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)