前科とは?生活への影響など
刑事事件のご相談では、「前科がつくと就職や結婚など、生活に影響があるのか」や、「前科を回避するためにはどうすればよいのか」など心配される方が多くいます。本稿では、そのような疑問を解消できるよう、前科について解説します。
目次
前科とは
実は前科の定義を示す法律はなく、「前科」という単語がみられるのも行政規則にとどまります。
この行政規則をみてみると、前科とは、略式命令又は判決で刑を言い渡され、それが確定した事実であるとうかがわれます(犯罪捜査規範178条1項4号参照)。
刑罰には、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の6種類があるので(刑法9条)、死刑を除く刑の有罪判決が確定すれば、前科ということになります。
前科と前歴の違い
前科は、上述のとおり略式命令又は判決にて刑罰を科されることが確定した事実をいいます。
前歴も前科と同様に定義規定はありませんが、一般的に、逮捕歴や少年法上の処分等の刑罰を科されるに至らないものをいうとされています。
前科の記録は残るか
前科は刑罰を科されることが確定した事実ですので、その事実自体が消滅することはありません。ただし、一定期間の経過により、市町村で保管されている犯罪人名簿から削除される場合があります。
犯罪人名簿とは
犯罪人名簿とは、全国の市区町村自治体が、罰金以上の有罪判決が確定した人の氏名や罪名・量刑などを記載し、管理・運用するものをいいます。
犯罪人名簿の取り扱いは、市区町村がそれぞれ独自に行っており、法律や政令等で作成・運用・管理の方法が全国統一して定められているわけではありません。
犯罪人名簿から削除されるとき
公開されている犯罪人名簿の取扱規程によると、一定期間の経過により、犯罪人名簿から削除する定めを置いていることが多いようです。
ここでいう一定期間とは、執行猶予期間(刑法27条)や刑の消滅にかかる期間(刑法34条の2)のように刑の言渡しの効力がなくなった場合です。
インターネット上に情報は残る可能性はある
もっとも、逮捕や有罪判決等に関して実名報道されることもあり、インターネット上に記事や何らかの書き込みが残る場合があります。
ネット上に残るすべての情報を完全に消すのは極めて困難かつ現実的ではありませんが、自分の情報が掲載されたウェブページを発見した場合は、その情報を削除するよう、サイト運営者に依頼ないしことが考えられるため、お悩みの方は弁護士に相談することを強くおすすめいたします。
前科がつくことによる生活への影響
就職に不利になることがある
企業に提出する履歴書が自由である場合は問題ありませんが、所定の履歴書に「賞罰」欄があることがあります。前科がある場合には、賞罰欄にそれ記載する必要があり、この記載をしなければ経歴詐称となります。
また、前科があることで資格制限される職業が存在します。たとえば、警察官や消防士等の国家公務員や地方公務員、弁護士、司法書士等です。
前科は離婚の理由になるか
前科があることが、直ちに離婚事由となることはありません。ただし、強制性交等罪のように犯罪行為自体が不貞行為に当たり(民法770条1項1号)、離婚事由となる場合がありますし、その他の犯罪行為であっても、その具体的な内容によっては「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)があるとして、離婚事由とされることもあります。
ローンは組めるか
ローンを組む際に重要な信用情報は、信用情報機関が保有するものですが、この信用情報に「前科前歴の有無」の記載はありません。このため、前科前歴があったとしても、住宅ローン等の審査に影響することがありません。
生活保護や年金はもらえるか
生活保護や年金は、法律によって支給要件が定められており、いずれも前科の有無を支給要件とはしていません。したがって、前科があったとしても、生活保護や年金の支給を受けることができます。
海外旅行はできるか
旅券法には、「死刑、無期若しくは長期二年以上の刑に当たる罪につき訴追されている者又はこれらの罪を犯した疑いにより逮捕状、勾引状、勾留状若しくは鑑定留置状が発せられている旨が関係機関から外務大臣に通報されている者」(旅券法13条1項2号)、「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者」(旅券法13条1項3号)に、パスポートの発給がしないことができると定められています。
また、パスポートの発行が認められても、渡航先の入国審査によっては入国できない場合もあります。
前科は回避できるのか
不起訴処分となれば前科はつかない
不起訴処分とは、検察官が行う終局処分のうち、公訴を提起しない処分をいいます。不起訴処分となれば、前歴がつくとしても、前科がつくことはありません。
なお起訴された場合の有罪率は99.9%であるため、高い確率で前科がつくことになります。したがって、前科がつかないようにするには不起訴処分を目指す必要があり、そのためには早期の弁護活動が不可欠です。
不起訴処分には示談の成立が重要
被害者がいる事案では、検察官が起訴するかどうかの判断をするにあたって、示談の成立の有無は考慮要素となります。起訴前に示談が成立している場合は、不起訴処分となる可能性が上がります。仮に起訴後に示談が成立したとしても、刑が軽くなる可能性が高くなります。
加害者が被害者の連絡先を知らない場合、弁護士に依頼しなければ捜査機関から被害者と連絡することはできません。また、加害者が被害者と連絡を取り合うことができるとしても、当事者間での示談が成立することは極めて難しい傾向にあります。示談交渉をしたい場合は、弁護士への依頼が必要不可欠です。
前科がつくのを回避するには、弁護士へご相談ください
前科がつくことによって、社会生活上のさまざまな場面で何らかの不利益を受けるリスクがあります。
不起訴処分に向けての活動は、弁護士に依頼することにより選べる手段の幅が格段に広がります。
お悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。
この記事の監修
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大阪弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。