不起訴とは
監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
皆さんは、どのような場合に起訴されて、どのような場合に不起訴になるのか分かりますか?被疑者が罪を認めているのに不起訴処分となったという報道を知り、なぜ?と思われたことがある方がおられるかもしれません。
この記事では、どのような理由で不起訴になるのか、逮捕されてしまった場合に不起訴処分を受けるためにはどうすればよいかということについて解説します。
目次
不起訴とは
犯罪が発生すると、捜査機関は犯罪についての捜査を行います。その結果、検察官が被疑者を刑事裁判にかける必要があると判断すれば、起訴します。反対に、検察官が被疑者を刑事裁判にかける必要がないと判断すれば、不起訴処分を行います。不起訴処分になれば、被疑者は刑事裁判にかけられません。
不起訴と無罪の違い
不起訴と無罪は別物です。不起訴はそもそも被疑者を起訴して刑事裁判にかけないので、刑事裁判による審理を経ていないものです。
一方、無罪は、刑事裁判の審理を経た後に、言い渡される判決の一種です。
不起訴処分で前科はつくのか
前科は、有罪判決を受けた経歴のことです。ですので、不起訴処分となった場合には、前科として残ることはありません。ただ、有罪判決には至らない犯罪歴のことである前歴は残ることになります。
不起訴と罰金の違い
不起訴処分となった場合、刑事裁判にかけられないので、罰金を支払うというようなことにはなりません。罰金というのは、あくまで刑事罰の1つであり、懲役刑や禁錮刑の場合と同じく前科になることは変わりありません。
不起訴になる理由
嫌疑なし
嫌疑なしは、犯罪行為がそもそも存在しない場合や犯罪の嫌疑がない場合のことをいいます。犯人と取り違えられたなど誤認逮捕の場合がこれに当たります。
嫌疑不十分
嫌疑不十分というのは、犯罪の嫌疑はあるが、犯罪行為をしたことを証拠により証明できない場合のことをいいます。
起訴猶予
起訴猶予とは、起訴すれば有罪判決になるとは思うが、検察官判断で起訴しない場合のことをいいます。不起訴処分の約9割は、起訴猶予です。起訴猶予は、嫌疑なしや嫌疑不十分の場合と異なり、起訴すれば有罪判決になるが、諸般の事情を考慮して起訴しなかっただけですので、後日起訴される可能性も0とは言えません。
親告罪の告訴取り下げ
親告罪とは、告訴がなければ公訴の提起をすることができない、つまり起訴することができない犯罪のことをいいます。刑事訴訟法237条1項には、「告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。」と規定されており、起訴前に限り告訴の取下げができます。親告罪であれば、告訴が取り下げられれば、検察官は起訴することはできないので、不起訴処分となります。
不起訴処分を得るには
「99.9%」 日本の刑事裁判の有罪率は、99.9%とも言われています。否認事件だけではなく、自白事件も含まれた数字ではありますが、起訴された場合には有罪となる確率が非常に高いことはお分かりいただけると思います。刑事裁判になる前に不起訴処分を得ることが非常に重要です。不起訴処分を得るにはどうすればよいか、場合に分けて解説していきます。
否認事件の場合
否認事件の場合においては、供述調書を作成しないことが重要です。供述調書を作成すると、刑事裁判において証拠として用いられるからです。間違っても罪を認める内容の供述調書を作成してはいけません。そのためにはどうするかというと、「黙秘」するべきです。捜査機関の取調べは非常に過酷なものです。人格否定をされたり、家族のことを悪く言われたり、急におだてて褒めてきたり、あの手この手で自白させようとしてきます。「黙秘権」は憲法上保障された権利であり、黙秘することは決して悪いことではありません。ただ、実際に黙秘を続けるのは難しいので、弁護人のサポートを得ることは不可欠です。
また、不当な取調べが行われていることを弁護人に報告すれば、弁護人が捜査機関に抗議文を送るなどの方法により、捜査の態様を是正することを求めることもできます。
被害者がいる自白事件の場合
被害者がいる自白事件で、不起訴処分を得るためには、被害者との間で示談を成立させることが重要です。
被害者としては、加害者と直接会って話をすることには抵抗感がありますし、加害者に名前、住所、口座情報などを知られたくないと考えるのが普通です。
そのため、間に弁護人が入って示談交渉を行うことで、当事者間で示談交渉を行う場合に比べて示談が成立しやすくなります。示談が成立すれば、弁護人は検察官に示談書を送りますし、被疑者を不起訴処分とするよう求める意見書を検察官に出すこともあります。
被害者がいない自白事件の場合
覚醒剤の所持・使用といった薬物犯罪は、被害者なき犯罪と言われています。被害者がいない以上、示談交渉をするというようなことはできません。不起訴処分を獲得するには、被疑者の反省を示したり、再犯可能性がない・低いことを検察官に示す必要があります。
不起訴になったことはいつわかるのか
逮捕・勾留されている身体拘束事件と身体拘束されずに捜査をする在宅事件では、起訴・不起訴を決める終局処分の時期が異なります。在宅事件の場合、身体拘束事件と異なり、終局処分の期限がないため、いつ終局処分が行われるか分かりません。
そして、検察官が不起訴処分をした事実や不起訴処分とした理由について通知する義務はありません。後述しますが、不起訴処分となったことを知るには、不起訴処分告知請求をする必要があります。
不起訴を証明するには不起訴処分告知書の請求を
刑事訴訟法259条には、「検察官は、事件につき公訴を提起しない処分をした場合において、被疑者の請求があるときは、速やかにその旨をこれに告げなければならない。」と規定されています。この規定を根拠に、検察官に対し、不起訴処分告知請求をします。すると、検察官は不起訴処分告知書を交付しますので、その書面によって、不起訴処分となったことを証明できます。
不起訴処分を得るには、早期の弁護活動が重要です。
刑事弁護の世界では、とにかく初回接見が重要と言われています。接見というのは、弁護人と被疑者が話をすることをいいます。接見での話し合いによって、取調べに対する対応方法等の今後の弁護方針を確定させていきます。したがって、逮捕後取調べを受けるまでの間に早く初回接見を行うことがとにかく重要です。
初回接見で弁護人と作戦会議をします。初回接見が遅くなると作戦会議をしないまま取調べを受けることになり、圧倒的に不利な戦いを強いられます。国選弁護人は、被疑者勾留後でなければ選任されず、自由に弁護人を選ぶこともできません。また、在宅事件では国選弁護人は選任されません。
不起訴処分を得るには、早期段階での弁護士への相談が重要です。私選弁護人への依頼を考えてみてはいかがでしょうか。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)