監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
相続財産の中に土地や建物の不動産がある場合、基本的には相続人の間で話合いをし、分け方を決めていくことになります。
この点、不動産は、価値のある財産であるため、相続を望む人が複数いる場合など、トラブルに発展する可能性が高いです。
ここでは、不動産の分割方法や、不動産相続時に必要な手続きにポイントを絞って、ご説明していきます。
目次
相続した不動産はどうやって分ければ良いの?
相続した不動産は、どのように分けたらいいでしょうか。
不動産を分ける方法としては、 ①現物分割②代償分割③共有分割④換価分割の4つの方法があります。
遺言書があるなら内容を確認しましょう
前提として、被相続人が亡くなった場合、遺言書があるか調べ、遺言書がある場合には、その内容を確認する必要があります。原則として、遺言書に遺贈する旨の記載や遺産分割方法の指定があった場合には、その遺言内容にしたがって分けることになります。
なお、ご自宅で被相続人の遺言書を発見した場合、家庭裁判所に対し、遺言書の検認の申立てる必要があります(民法1004条1項)。家庭裁判所外でその遺言書を開封したり、遺言書検認手続を経ずに遺言を執行したりすると、5万円以下の過料に処される可能性があるため、注意が必要です(民法1005条)。
相続人の一人がそのまま相続する(現物分割)
現物分割とは、不動産の形状や性質を変更することなく、現物のまま、特定の相続人に分配する方法をいいます。
例えば、相続人がA・B・Cと3人いる場合、Aには土地、Bには建物、Cには預金を取得させるようなケースです。
不動産を売却したり評価したりする手間が省けるため、比較的手続きが簡単です。一方で、遺産ごとの価値に差があると、平等に分配することは難しく、公平性に欠けるというデメリットがあります。
相続する人がほかの相続人にお金を払う(代償分割)
代償分割とは、特定の相続人に不動産を現物のまま取得させ、その相続人から他の相続人に対して、代償金を支払う方法をいいます。
例えば、相続人がA・B・Cと3人いる場合において、Aが土地と建物を取得する代わりに、BとCに対し、不動産の価額の1/3に相当する金銭を支払うようなケースです。
各相続人に平等に分配することができるメリットはありますが、相続人の資力によっては、現物のまま取得を希望する相続人の負担が大きく、代償金が支払われないリスクがあります。
複数の相続人で共有する(共有分割)
共有分割とは、複数の相続人のあいだで、各相続人の相続分に応じて、不動産を共同で所有するという方法をいいます。
例えば、相続人がA・B・Cと3人いる場合、それぞれが1/3ずつ持分登記をするようなケースです。
各相続人に平等に分配することができるというメリットはありますが、共有者が亡くなり、新たな相続が発生すると、さらに共有者が増え、権利関係が複雑になるというデメリットがあります。
売却・現金化して相続人で分ける(換価分割)
換価分割とは、売却して得た代金を各相続人で分配する方法をいいます。
例えば、相続人がA・B・Cと3人いる場合、まずは不動産を売却し、得た売却代金を1/3ずつ分配するようなケースです。
平等に分配することもでき、売却することで、今後不動産の維持管理を行う必要がなくなるというメリットがあります。一方で、不動産の売却手続に時間がかかり、処分費用や譲渡所得税を負担する必要があるというデメリットがあります。
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不動産の相続には名義変更が必要
相続登記はいつまでにやればいい?
相続により、不動産を取得することが決まった場合、所有者を明らかにするために登記上の所有名義を変更する必要があります。
現行法においては、相続登記は義務付けられていませんが、令和6年4月1日から、相続人は「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内」に相続登記をすることが義務化されます(改正不動産登記法第76条の2第1項)。
なお、この改正法は、施行日である令和6年4月1日の以前に発生した相続にも適用されるため、なるべく早く手続きをしておくことをお勧めします。
相続登記に必要な書類
相続登記の申請には、以下の書類が必要となります。
①被相続人(亡くなられた方)の戸籍謄本及び除籍謄本
②被相続人の住民票の除票
③法定相続人全員の戸籍謄本
④不動産を取得する方の住民票
⑤不動産の固定資産税評価証明書
⑥不動産の登記事項証明書
⑦(遺贈によって不動産を取得する場合)遺言書
⑧(遺産分割協議によって不動産を取得する場合)遺産分割協議書及び法定相続人全員の印鑑登録証明書
提出先
不動産の所在地を管轄する法務局に対し、登記申請書と必要書類を提出することになります。この提出は、法務局の窓口への持参でも郵送でもすることができます。
不動産の相続時に発生する税金
相続税
相続税とは、相続または遺贈により、被相続人の財産を取得した人が支払う税金のことをいいます。
相続税には基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」があるため、この額を超える相続財産があれば相続税の申告と納税が必要です。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内とされています。この期限に送れると、延滞税や無申告加算税が課される場合があります。
仮に、この期限内に、遺産分割協議がまとまらない場合であっても、相続税の申告期限が自動的に延長されるわけではありません。相続人が法定相続分に従って財産を取得したものと仮定して、相続税の計算をし、申告と納税をすることになります。遺産分割後に、その分割に基づいて計算した相続税と申告した額が異なるときには、修正申告または更正の請求をすることができます。
登録免許税
登録免許税とは、登記の手続きの際にかかる税金のことをいいます。
相続によって、不動産を取得し、相続登記をする場合、登録免許税を納付しなければなりません。
登記によって不動産の所有者であることが公示され、他人に対して不動産の権利を主張することができるようになります。登録免許税は、その利益に対して課される税金です。
相続登記の登録免許税は、不動産の価格(固定資産税評価額)の0.4%とされています。
相続したくない不動産はどうすればいい?
不動産を相続してしまうと、その不動産の管理や固定資産税の支払い等の負担が生じます。
不動産を相続したくない場合、相続放棄の手続をとることが考えられます。
ただし、相続放棄は、被相続人の財産に対する一切の権利義務を放棄する手続きです。
相続したくない土地や建物だけを相続放棄することはできません。
不動産の相続放棄をする場合は、その他の預金や株式等のプラスの財産もすべて放棄することになります。
不動産の相続に関するQ&A
父が亡くなったのですが、不動産の名義人が祖父になっていました。この場合、私たちは相続できないのでしょうか?
不動産の名義人が祖父のままである原因として、①祖父の相続が発生してから、遺産分割協議が行われないまま放置されていたか、②遺産分割協議は成立したものの、相続登記の手続きを行わないまま放置されていたことが考えられます。
①の場合、まず祖父の法定相続人全員の協議により、祖父の遺産の分割協議を行った上で、父親の遺産分割協議を行う必要があります。
②の場合、祖父の遺産分割協議で成立した内容を前提として、父親の遺産分割協議を進めていくことになります。仮に、父親以外の法定相続人が当該不動産を取得するという内容で遺産分割協議が成立していた場合には、父親の遺産に当該不動産は含まれないため、相続をすることはできません。
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不動産の相続は弁護士へ依頼するのがおすすめ
不動産は、他の相続財産と比較しても資産価値の高い財産です。誰が相続するか、不動産の評価額はいくらかなど、紛争に発展する可能性が高く、税金や登記など手続の問題もかかわってくるため、ご本人だけでは対応が難しいケースも少なくありません。
何か分からないことが生じたとき、独断で判断するのではなく、専門家に相談することで、避けられる紛争も数多く存在します。
無用な紛争を避けるためにも、相続財産に不動産が含まれる場合には、お早めに弁護士に相談していただき、それぞれの事案で適切な進め方を検討することをお勧めします。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)