監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
相続の場面においては、様々な問題が発生します。その中で相続人のうちの一人が、認知症になっているという場合も、近年の高齢化社会においては十分に考えられます。
本稿では、相続人の中に、認知症の人がいた場合、どのような問題が発生する可能性があるのかについて、解説していきます。
目次
相続人が認知症になったらどうなる?
相続人が認知症となった場合、その程度にもよりますが、判断能力が低下し、意思能力(法律行為をするに際し、自身の行為の意味や結果を判断することのできる能力)が失われてしまうことがあります。
民法上は、「当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」(民法3条の2)とされています。
そのため、相続人の中に一人でも認知症の人がいる場合、以下のような問題が発生する可能性があります。
遺産分割協議ができなくなる
認知症になった場合、判断能力が低下し、意思能力が失われてしまいます。その結果、遺産分割協議において有効な意思表示ができないと判断されることとなります。
そのため、認知症のある相続人が合意をしたとしても、そのような遺産分割協議は、有効な意思表示がないものとして、無効となります。
また、遺産分割協議は、相続人全員が参加する必要がある以上、仮に、他の相続人のみで遺産分割協議書を作成したとしても、無効となります。
認知症になった相続人は相続放棄ができなくなる
相続放棄も法律行為であるため、意思能力がなければ無効となります。そのため、認知症になった相続人は、法律上、単独で、相続放棄を行うことができなくなります。
仮に、相続放棄の意思表示がなされたとしても、意思表示に欠陥があるものとして、無効であるとされる可能性があります。
相続できなくなる認知症の程度はどれくらい?
相続人が認知症であるからと言って、一律に相続ができなくなるというわけではありません。
認知症と言っても、その症状の重さは様々です。
この点、相続できなくなる認知症の程度に関して、明確な判断基準は存在せず、個別の症状の重さに応じて、判断されていくことになるでしょう。
軽い認知症だったら相続手続きできる?
前述したように法律上、意思表示が無効とされるのは、意思能力を有しない場合です。
認知症の程度が軽く、意思能力がある、すなわち、法律行為をするに際し、自身の行為の意味や結果を判断することのできる能力があると判断された場合には、上記のような意思表示が有効になる可能性はあります。
認知症の相続人がいる場合は成年後見制度を利用して相続手続きを行う
認知症の相続人がいる場合には、成年後見制度を利用して、相続手続きを行うことができます。
成年後見人は、認知症の相続人に代わって、法律行為を行う権限があるので、認知症の相続人が単独で行うことのできない、遺産分割協議や、相続放棄について、代理人として、行うことができます。
成年後見人は、将来認知症になった場合に備えて、事前に後見人を選任し、契約をしておく任意後見という方法と、裁判所に選任してもらう法定後見という方法の二通りで選任することができます。
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認知症の人がいる場合の相続手続きに関するQ&A
認知症であることを隠して相続したらバレますか?
相続手続においては、銀行口座の移動等、本人確認を伴う場面が多々存在します。そのため、そのような本人確認の場面で、相続人が認知症であることが判明する可能性は十分にあります。
前述したとおり、認知症の方がいる場合の遺産分割協議は無効となりますし、仮に、遺産分割協議書等の書類に、認知症の方に代わって署名押印した場合には、私文書偽造罪(刑法159条1項)に問われる可能性もあります。
唯一の相続人が認知症になってしまった場合、相続手続きはどうなるのでしょうか?
相続人が一人ということであれば、遺産の分割という問題が生じることはありません。しかし、認知症となり、相続人に意思能力がないと判断される場合には、そのことから、いくつかの問題が発生します。
具体的には、本人確認の必要な口座の移動手続や、弁護士等への相続手続の委任(委任も法律行為であるため)、相続により取得した不動産についての処理(売買や賃貸借)等々です。
認知症の方がいる場合の相続はご相談ください
高齢化が進んでいる社会状況の中で、相続人の中に認知症の方がいる可能性はどんどん高まっていきます。そして、そのような場合には、前述したような問題が起こり得ます。
適切な手続の下、相続をしなければ、せっかくの手続も無駄になってしまいます。相続の際のご不安やご不明点があれば、ぜひ弁護士に一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)