監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
法定相続人は、相続をする権利を持っています。ですが、被相続人が残した遺言を偽造したり、自分と同順位以上の相続人を死亡させるなどして刑に処せられたりした場合にまで、法定相続人という地位を保証しなければならないのでしょうか。
ここでは、「相続欠格」について解説いたします。
目次
相続欠格とは
相続欠格とは、本来法定相続人の立場にある人物が、種々の理由によって相続人としての立場を失うことをいいます(民法891条)。相続欠格の事由としては、被相続人や同順位以上の相続人を殺害したり、遺言書を偽造したりするなど、色々なものが定められていて、大きく5つの種類に分類されています。
以下、法律で定められている種類ごとに一つずつ順番に解説してまいります。
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どんな場合に相続欠格になるの?
遺産を手に入れるために、被相続人や他の相続人を殺害した、または殺害しようとした
被相続人や他の相続人を、故意に死なせるか、死なせようとしたことが必要となります(民法891条1号)。故意に死なせようとする必要があるため、傷害した結果死亡してしまったといった場合には、相続欠格とはなりません。さらに、「刑に処せられた者」でなければならないため、執行猶予となった場合には、相続欠格とはなりません。ですので、殺害したのが正当防衛に基づくものなのであれば「罰しない」(刑法36条1項)とされているため、相続欠格とはならないこととなります。
被相続人が殺害されたことを知りながら黙っていた
被相続人が殺されたことを知っていたのに告発・告訴しなかった場合も、相続欠格事由に該当します(民法891条2項)。ただし、①その者に是非の弁別がないとき、又は②殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、相続欠格事由には該当しません。
①は、認知症などの理由で判断能力を有していない場合や、子どもである場合を指します。②の「直系血族」とは、血のつながった親や子、祖父母や孫のことをいいます。
詐欺や強迫によって、被相続人が遺言を残すことや取り消すこと、変更することを妨害した
被相続人が遺言をしようとしたり、既に作成していた遺言を取り消したり、内容を変更しようとしたりするときに、詐欺や強迫により、その被相続人を妨害した場合には、相続欠格事由に該当します(民法891条3項)。
自分に有利な相続とするために、被相続人の真意を歪める行為を禁じているものです。
詐欺や強迫によって、被相続人に遺言を残させたり、撤回や取消し、変更させたりした
3つ目のものと似たものではありますが、詐欺や強迫によって遺言をさせたり、既に作成していた遺言を撤回・取り消し・変更させたりした場合にも、相続欠格事由に該当します(民法891条4項)。先ほどのものと同じように、 自分に有利な相続とするために、被相続人の真意を歪める行為を禁じているものです。
遺言書を偽造、書き換え、隠ぺい、破棄した
既にある遺言書を偽造・書き換えて自分に有利な遺言とすることや、自分に不利な遺言書を隠ぺいしたり破棄したりすることは、相続欠格事由に該当します(民法891条5項)。
こちらも、被相続人の真意とは異なるものにしてしまうことになるため、禁じられています。
相続欠格者がいる場合、相続順位はどうなる?
相続欠格者がいる場合には、その者は相続することができなくなります。ですが、その者に子どもがいる場合には、その子どもが代襲相続することとなり、その相続順位を引き継ぎます。同順位の法定相続人が相続欠格者のみであれば、その次に法定相続人になる方が相続人となります。
代襲相続とは|代襲相続人になれる人と相続割合相続欠格であることは戸籍に表記されない
相続欠格であることが戸籍に記載されるかどうかについての質問を受けることがありますが、相続欠格であることについては、戸籍には記載されません。
相続欠格者がいる場合の相続手続き
相続欠格者が、相続欠格事由を認めている場合には、その相続欠格者に相続欠格証明書を作成してもらいます。その上で、残りの相続人で遺産分割協議をしていくこととなります。遺産分割協議書と相続欠格証明書をそろえることで、不動産の登記を移転することなどが可能となります。これは、上で説明したように相続欠格者が戸籍に記載されるわけではなく、証明する物が必要になるためです。
相続欠格者が、相続欠格事由を認めていない場合には、交渉や訴訟によって、相続欠格事由があることを争っていくこととなります。
相続欠格と相続廃除の違い
相続欠格とは異なり、相続廃除の場合には、その旨が戸籍に記載されることとなります。また、相続廃除は被相続人の請求に基づいて、相続人としての権利が失われるものですが、相続欠格は被相続人の請求に基づくことなく、つまり被相続人の意向にかかわらず、相続人としての権利が失われるものになります。
相続欠格に関するQ&A
相続欠格者が、遺言書に書いてあるのだから遺産をもらえるはずだと言っています。従わなければならないのでしょうか?
従う必要はありません。相続欠格事由があれば、相続発生時まで遡って相続の権利が失われることになるためです。
相続欠格者から遺留分を請求されました。無視していいですか?
そのような請求に応じる必要はありません。相続欠格事由があれば、相続発生時まで遡って相続の権利が失われることとなります。そうなると、遺留分侵害額請求権も無くなることとなります。
遺産分割後に遺言書の偽造が判明しました。やり直しはできますか?
相続欠格事由があれば、相続発生時まで遡って相続の権利が失われます。その相続欠格者、すなわち権利を持たない人がいる状態で行われた遺産分割協議については、やり直すこととなります。
相続人の一人が嘘を吹き込み、遺言書を書き直させたようなのですが、証拠がないと言われてしまいました。諦めるしかないのでしょうか?
そのときに立ち会っていた人がいないかや、その吹き込んだ「嘘」と正反対の認識を被相続人が遺言書を書き直す直前まで持っていなかったなど、諦めずに証拠を探すことが肝要です。
相続欠格者がいます。相続税の基礎控除額に影響しますか?
相続税は、その法定相続人の数によって相続税の基礎控除額が異なります。相続欠格者がいる場合には、その人は相続税の基礎控除額を計算する上での法定相続人の数に入りません。もっとも、その相続欠格者の代襲相続人がいる場合には、その人は法定相続人の数に入ります。
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相続欠格に関する問題は弁護士にご相談下さい
相続欠格はあまり多く発生するものではありません。それだけに、ご自身が相続欠格の問題に関わることになった場合には、どのように対応すれば良いのか分からないことが多くあることでしょう。そのような場合に、何も準備せずに進めてしまうと後悔の残る相続となる危険が非常に高いです。
ご自身の他の相続人が相続欠格に該当する可能性があるなど、相続欠格に関わる問題に対処しなければならないときには、ぜひ少しでも早く、専門家である弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)