遺留分侵害額請求に期限はある?時効を止める方法も詳しく解説

相続問題

遺留分侵害額請求に期限はある?時効を止める方法も詳しく解説

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

被相続人が生前に行った贈与や遺贈によって、相続人の遺留分が侵害されていることがあります。このとき、相続人は遺留分を請求することで、侵害額に相当する金銭を得ることができます。
ただし、遺留分権の行使には「時効」があるので注意が必要です。
今回は、遺留分の時効、時効の止め方、遺留分を請求した後の注意点などを解説していきます。
※なお、平成30年の民法改正により、「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」と呼ばれるようになりました。

遺留分はいつまで請求できる?期限はあるのか?

遺留分とは、被相続人の財産のうち、一定の相続人に保障される経済的利益をいいます。
遺留分を請求できる相続人の範囲は法律で定められており(民1042条)、典型例としては配偶者や子、直系尊属が挙げられます。
遺留分侵害額請求には、以下のとおり、期間の制限があります(民1048条)。
① 遺留分があることを知った時から1年(時効)
② 相続開始の時から10年(除斥期間)
期限を過ぎると、遺留分を請求することができなくなってしまいます。

遺留分侵害額請求とは|請求の方法と注意点

①遺留分があることを知った時から1年(時効)

遺留分を請求できる権利(遺留分侵害額請求権)は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年間行使しないときは、時効により消滅します(民1048条前段)。
ただし、遺産分割協議で合意した後は、時効が完成する前であっても、相続人全員の合意がない限り、遺留分を受け取ることはできません。というのも、遺産分割協議において自分の遺留分を侵害する遺産の帰属を認めているところ、一度合意した協議内容を覆すことはほとんど不可能だからです。

贈与(生前贈与) 遺言以外の方法で自分の財産を無償で譲渡すること
遺贈 遺言によって遺言者の財産を無償で譲渡すること

時効はいつからカウントされる?起算点について

「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」とは、相続の開始と贈与又は遺贈があったことを知っただけでなく、その贈与や遺贈が自分の遺留分を侵害することを知った時と解されています。
しかし実務上、贈与の事実などをある程度漠然と「知った」場合であっても、時効の起算点となりえます。
したがって、原則、被相続人の死亡時から1年で時効が完成すると考えておくのがよいでしょう。

②相続開始から10年(除斥期間)

遺留分権利者が、遺留分を侵害するような遺贈や贈与などがあったことを知らなくても、相続が開始してから10年が経過すると消滅します。
除斥期間は消滅時効と異なり、時効の完成猶予のように、期間満了後も所定の時期を経過するまでは時効が完成しないといった救済措置はありません。

遺留分侵害額請求権の時効を止める方法

消滅時効の期間(原則、被相続人死亡時から1年)が満了する前に、遺留分侵害額請求の意思表示をすることで、改めて時効期間を延ばすことができます。
正確には、形成権である遺留分侵害額請求権を行使することで、金銭給付請求権が発生し、この金銭給付請求権の時効が新たに進行することになるからです。

相手方に内容証明郵便を送る

相手方に遺留分請求の意思表示をするにあたっては、「配達証明付きの内容証明郵便」で通知書を送りましょう。
意思表示は相手方に到達したときから効力を生じるので(民97条1項)、通知書が相手方に届いたこと、つまり、意思表示が届いたことを証明できるようにしておく必要があります。また、書面で残しておかないと、後で「言った、言わない」の争いになりかねないため、内容証明郵便を用いるのがベストです。

内容証明郵便に記載する事項

遺留分請求の意思表示として、内容証明郵便を利用する場合、その書面には以下の内容を記載してください。

  • 被相続人(故人)の情報
  • 相手方である相続人の情報
  • 遺留分を侵害している遺贈、贈与、遺言の特定
  • 遺留分侵害額請求を行う旨
  • 請求の日時
  • あなたの名前

なお、遺留分侵害額請求権は、形成権であり、権利行使の意思表示をしないと、遺留分侵害額に相当する金銭債権は発生しません。内容証明郵便の書き方がわからない、自分で作成したものが法的効果を発生させるか不安だ、といったことがあれば、弁護士に相談することをお勧めします。

遺留分を請求した後の時効にも要注意!

内容証明郵便で遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示をした後も、時効の問題があります。
遺留分侵害額請求の意思表示をした結果、遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生します。そして、この金銭債権の消滅時効期間は、意思表示をした時から5年となります。
なお、消滅時効期間は、2020年4月1日施行の民法改正によって、10年から5年に短縮されました。意思表示をした時が2020年4月1日より前か後かによって、消滅時効期間が異なるので注意が必要です。

2020年3月31日以前に行使した場合 消滅時効10年
2020年4月1日以降に行使した場合 消滅時効5年

金銭債権の時効を止める方法はある?

金銭債権の時効完成を阻止するためには、

  • 遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求める裁判を起こし、確定判決を得る(民147条)
  • 相手方に自ら金銭を支払う義務のあることを承認させる(民152条)

などが考えられます。ただし、
判決の確定時又は相手方の承認時から、また新たに時効が進行するので、5年経過により時効が完成してしまうことに注意してください。

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遺言や遺贈の無効についても争う場合の注意点

遺留分がかかわる相続では、遺言無効確認調停や訴訟が併せて提起されることが多いです。
遺言の効力をめぐって訴訟等をしている間にも、遺留分侵害額請求権の時効は進行してしまうので注意が必要です。遺言の無効を争う場合においても、遺留分侵害額請求をする旨の内容証明郵便を送付しておきましょう。
これは、遺贈や贈与の無効を争う場合も同様であり、遺留分侵害額請求権の時効は進行してしまうので、ご注意ください。
なお、訴訟や調停においては、主位的には遺言の無効を主張し、予備的に遺留分侵害額の金銭の支払いを求めることが多いです。

遺留分の期限に関するQ&A

遺留分は放棄できますか?また、放棄するのに期限はありますか?

遺留分は放棄することができます。相続の放棄(民939条)とは異なり、期限もありません。
もっとも、相続開始前と相続開始後とで扱いが変わります。
相続開始前に遺留分を放棄するためには、家庭裁判所の許可を得る必要があります(民1049条1項)。また、この場合、遺留分放棄の意思表示は、被相続人に対して行います。
他方、相続開始後は、自由に遺留分を放棄することができます。家庭裁判所の許可なしに可能です。このとき、遺留分放棄の意思表示は、遺留分侵害請求の相手方に対してなします。

遺留分の時効が迫っているのですが、相手が請求に応じない場合はどうしたらいいですか?

遺留分侵害額請求権を行使した結果、侵害額相当の金銭を支払う義務が発生したにもかかわらず、相手方が任意に履行してくれないことがあります。その場合も金銭債権の時効が進行してしまうので、時効完成が迫っているならば、早急に、調停や訴訟の手続をとる必要があります。
訴訟等の手続を初めてとる方が大半かと存じますが、一人で進めていくのは容易ではない場合があります。少しでも不安があるときは、弁護士に依頼することをお勧めします。

調停や裁判を起こすことで、遺留分の期間制限を止めることはできますか?

遺留分請求の調停や裁判を起こすと、その手続が終了するまでの間、時効が完成することはありません(民147条1項本文)。そして、確定判決又は確定判決と同一の効力を有する者によって権利が確定したときは、権利が確定した時等から時効が新たに進行します(民147条2項)。
例えば、訴訟が相手方の支払義務を認める判決で終了し、相手方が不服申立てすることなく控訴期間満了により判決が確定すると、当該判決の確定時から新たに時効が進行することになります。

遺留分の請求には時効があります。なるべく早めに弁護士にご相談下さい。

以上のとおり、遺留分の請求には、最短で相続発生から1年間の期限があり、期限を経過すると遺留分を取得できなくなります。時効を止めるためには、相手方への意思表示が必要となり、権利を行使する旨の意思表示の結果生じた金銭債権についても時効があります。
遺留分の請求をお考えの方は、なるべく早めに弁護士に相談することをお勧めします。
個別の事情によって適した手続や主張内容は異なる上、自分で対応するには時間も手間もかかります。自己に有利な手続の進行や書面作成に不安を覚える方は、弁護士への依頼をご検討ください。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
大阪弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。