限定承認とは|相続で限定承認を行うメリットとデメリット

相続問題

限定承認とは|相続で限定承認を行うメリットとデメリット

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

相続においては、一般に広く知られている、被相続人の全ての遺産を受け取る通常の相続(単純承認)と全ての遺産を受け取らない相続放棄以外にも、限定承認という選択肢があります。本記事では、遺産を受け取るか受け取らないか、0か100かの2択ではなく、第3の選択肢「限定承認」について解説していきたいと思います。

限定承認とは

限定承認とは、被相続人が残した債務等を相続財産の限度で弁済する、ということを条件とする相続方法のことをいいます。

つまり、プラスの財産も負債等のマイナスの財産もすべてを相続する単純承認、その反対にプラスの財産もマイナスの財産もすべてを放棄する相続放棄とは異なり、プラスの財産の限度でマイナスの財産を弁済し、プラス財産にあまりがでれば相続人が実際に遺産を手にしますが、プラス財産がマイナス財産の弁済で全てなくなってしまえば、手元には何も残りません。

限定承認のメリット

限定承認は、プラスの財産の限度でマイナスの財産を弁済するという条件付きの相続方法です。このような条件付きの相続方法には様々なメリットがあります。以下で確認していきましょう。

負債を負うことがない

限定承認はプラスの財産の限度でマイナスの財産を弁済するという条件付きの相続ですので、あらかじめ、相続人が負うべきマイナスの財産が限定されています。そのため、仮にマイナスの財産がプラスの財産より多くなっている場合であっても、プラスの財産を超過する部分について、相続人が相続人固有の財産で弁済する責任を負いません。

連帯保証人の地位は受け継ぐことに注意が必要

連帯保証人は、ある契約において、主債務者の負った債務の弁済を求められた場合、主債務者と連帯して弁済する義務を負います。民法896条において「相続人は、……被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」とされています(なお、同条の但し書きで被相続人でなければ生じないような専属的な権利義務は除かれています)。連帯保証人の義務は先に述べたように主債務者と連帯して弁済するというものですので、被相続人でなければ生じない義務ではありません。したがって被相続人が連帯保証人になっていた場合にはその地位を相続します。限定承認した場合、連帯保証人の地位は相続するのでプラスの財産の限度で弁済義務は生じますので注意してください。

特定の財産を残せる

限定承認においては、民法932条において、先買権(さきがいけん)という相続財産に対する優先権が認められています。相続人が取得したい特定の財産がある場合には、家庭裁判所に鑑定人選任の申立てをし、選任された鑑定人行った当該財産の評価相当額を相続人が自身の固有財産から支払うことができれば、当該財産を優先して取得できることになっています。この仕組みを利用することで、失うことで相続人の生活にも影響が生じてしまう居住不動産や、ご家族にとって金銭的価値以上の意味を有する財産など、大切な財産を守ることが可能となります。

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限定承認のデメリット

限定承認には、既に述べてきたメリットがありますが、実務上あまり利用されていません。その理由は手続や要件の難しさにあります。以下で限定承認のデメリットといえる点をご説明いたします。

相続人全員が限定承認する必要がある

全ての財産を相続する単純承認とは異なり、限定承認はプラスの財産の限度でマイナスの財産を弁済するという条件が付されます。相続人が複数人いる場合に、限定承認する人と単純承認する人が混在すると、相続財産の整合性がとれなくなります。そのため一部の相続人だけが限定承認を行うということはできません。既に単純承認した相続人がいると、限定承認という方法はとれなくなってしまいます。

相続放棄した人がいる場合

単純承認とは異なり、相続放棄の場合は、相続放棄した人は、初めから相続人とはならなかったものとみなされます(民法939条)。既に相続放棄した人がいても、その人は初めから相続人ではなかったとみなされるのですから、それ以外の相続人全員で限定承認を行うことは可能です。

相続財産に手を付けることができない

相続人が相続財産の全部又は一部を処分した場合には、単純承認したものとみなされてしまいます(民法921条)。限定承認は他の相続方法に比して手続が煩雑であるため、手続完了までにかなりの時間を要することは既に述べたとおりですが、その間、相続財産を処分してしまうと限定承認が認められなくなってしまうおそれがあるため、相続人は、手続が完了するまで相続財産を処分することができなくなってしまいます。

税金がかかってしまう場合がある

限定承認を行った場合、相続税と譲渡所得税の2つの税金の対象になります。プラスの財産とマイナスの財産を相続し、プラスの財産が残った場合には、相続税がかかる可能性があります。また、限定承認をした場合、被相続人から相続人へ時価で財産を売却したとみなされるので、みなし譲渡所得税も課税されます。さらに、譲渡所得税が発生することに伴い、相続人が被相続人の確定申告代って行う必要があります(準確定申告)。原則として相続人は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告をし、納税をしなければなりません。

申請までに手間や時間が掛かる

既にご説明しましたとおり、限定承認は相続人全員で行う必要があるため、相続人を確定することが必要となります。また、確定された相続人全員と連絡をとり、限定承認を行うことに同意してもらうだけでなく、手続きへの協力を取り付ける必要があります。

受理された後も、更に手続きがある

限定承認を行うにあたっては、公告という手続きが必要になってきます(民法927条1項)。限定承認は、一種の清算手続的な側面があるため、広く被相続人に対する債権の請求を申出をすべき旨を知らせる必要があります。この公告は、限定承認をした後5日以内に、2ヶ月を下らない一定の期間を設けて行うため、公告手続きだけで2ヶ月以上の期間を要することになります。また、公告期間経過後に、弁済・清算を行うことになります。

限定承認の手続き方法

限定承認は、家庭裁判所に限定承認する旨の申述を行うことで開始し、その後、公告手続きを経て、財産の換価処分・弁済等を行うことになります。

限定承認に必要な書類

限定承認の申述をするには以下の書類が必要になります。

  • ・限定承認の申述書
  • ・財産目録
  • ・被相続人の出生から死亡までの除籍や戸籍謄本
  • ・相続人全員の戸籍謄本
  • ・被相続人の住民票の除票又は戸籍附票
  • ・財産目録記載の財産に関する証拠書類
  • ・その他、家庭裁判所に提出を求められる書類

限定承認の手続きの流れ

相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、限定承認の申述書、相続財産の目録を作成し、その他必要書類を添付して被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出して限定承認する旨を申述することになります。申述受理された後、相続財産の清算手続が行われ、限定承認者請求申出の公告を行い、相続財産の換価等を経て、相続債権者・受遺者への弁済を行うことになります。

費用

限定承認の申述を行うにあたっては、裁判所に納める手数料(1人800円)と予納郵券(裁判所によって異なる)が必要となります。また、公告費用や、財産の換価の際に鑑定人費用や各種手数料が発生してきます。また、これ以外にも、戸籍等の取得費用も別途必要となってきます。

限定承認の期限は3ヶ月

限定承認は、原則として、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に行わなければなりません(民法915条)。この3ヶ月を過ぎると、単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。期間を徒過しそうな場合は、予め期間伸長の手続きをとっておく必要があります。

限定承認についてご不明な点はぜひご相談下さい

限定承認は、マイナスの財産の方がプラスの財産より多い場合や、マイナスの財産がありそうだけれども、どのくらいあるのか明確ではない場合、特定の取得したい財産がある場合などに非常にメリットのある制度といえます。限定承認のデメリットの多くは、専門家に手続きを委任することで解消できるものといえます。手続きを行う期間が限られているからこそ、お一人で悩まずに、ぜひ専門家である弁護士にご相談ください。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
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