労務

業務委託との団体交渉が特に問題になるケースと適切な対応方法

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • 団体交渉

団体交渉とは、労働組合と会社との間で行われる、労働条件等についての交渉をいいます。

通常、団体交渉の当事者としては、雇用契約を締結している会社とその従業員が想定されています。
しかし、会社と業務委託(請負)契約を結んでいる受託者が労働組合に加入し、会社に対して団体交渉を申し入れるケースが存在します。

このように会社と直接の雇用契約を結んでいない者から団体交渉の申し入れがあった場合、会社はこれに応じる義務があるのでしょうか。

本記事では、会社には業務委託(請負)の受託者からの団体交渉に応じる義務があるのか、またその際に会社側がとるべき適切な対応方法について解説します。

業務委託(請負)の場合でも団体交渉に応じる必要があるか?

会社が団体交渉の申し入れに応じる義務が生じるのは、交渉の相手方が労働組合法上の「労働者」の代表者である場合に限られます。

したがって、業務委託(請負)に基づき業務を遂行する受託者は、原則として「労働者」には該当せず、団体交渉に応じる義務はありません。

ただし、「労働者」に該当するかどうかは、契約の名目ではなくその実態を見て判断されます。
名目上は業務委託(請負)であっても、実質的に「労働者」にあたると判断される場合には、会社はその者からの団体交渉に応じる義務を負うこととなります。

業務委託(請負)に労働者性は認められるのか?

労働組合法第3条において、「労働者」は「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義されています。

したがって、業務委託(請負)の就業実態がこの定義に当てはまる場合は、業務委託(請負)であっても「労働者」と認められることになります。

労働組合法上の労働者性が認められた裁判例

INAXメンテナンス事件(最高裁判決平成23年4月12日)では、以下の点を考慮したうえ、業務委託契約の受託者を「労働者」と認定しました。

  • ① 労働者が事業組織に組み入れられているか
  • ② 契約内容が使用者により一方的に決定されているか
  • ➂ 報酬が労務の対価といえるか
  • ④ 業務の依頼の諾否の自由があるか
  • ⑤ 指揮監督関係の存在があるか

このように、判例上においても、「労働者」と認定されるか否かは、契約の形式ではなく、就業等の実態を総合的に考慮したうえで判断されています。

業務委託(請負)に使用者性は認められるのか?

団体交渉に応じる義務を負う「使用者」は、原則として「労働者」と労働契約を締結している相手方を指します。しかし、この原則には以下の例外があると解釈されます。

  • ① 労働契約を締結している使用者以外であっても、労働者の労働条件等について現実的かつ具体的に支配・決定することができる地位にある者
  • ② 過去に使用者であった者、あるいは将来において使用者となる可能性がある者

したがって、上記例外にあたる場合は、業務委託(請負)の関係性においても使用者性が肯定されることとなります。

業務委託(請負)との団体交渉が特に問題となるケースとは?

業務委託(請負)との団体交渉が特に問題となるケースとしては、以下の主に2つが挙げられます。

  • 業務委託(請負)の受託者を社内で作業させているケース
  • 実質的に「雇用」と判断できるケース

いずれのケースでも、団体交渉に誠実に応じないと、団体交渉拒否にあたり、不当労働行為として労働組合法違反となると判断される可能性があることにご注意ください。

業務委託(請負)を社内で作業させているケース

フリーランスのシステムエンジニアなど、受託者を自社内で作業させている会社は少なくないですが、そのようなケースでは、受託者が事業組織に組み入れられていることや、時間的・場所的拘束性があることから指揮命令関係が認定されやすく、結果として「労働者」と認められる可能性が高くなります。

実質的に「雇用」と判断できるケース

「請負」というのは形式だけで、実際には発注業者が受託者に対して業務に関する細かい指示を出し、受託者がそれに従って業務を行っているケースでは、実質的に雇用関係と同視できるとして、「労働者」と認められる可能性が高くなります。

労働組合法上の使用者性を肯定した裁判例

朝日放送事件(最高裁判所平成7年2月28日)では、下請会社の従業員らが元請会社に対して団体交渉を求めたという事案です。

当該事案において、元請会社は、実質的にみて下請会社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたことから、元請会社が下請会社の従業員の労働条件等について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとして、元請会社の使用者性を肯定し、団体交渉に応じるべき義務を認めました。

業務委託(請負)で団体交渉を求められた場合の適切な対応方法

業務委託(請負)の受託者から団体交渉を申し入れられた場合に取るべき対応について、以下、ご紹介します。

団体交渉に応じるべきか慎重に判断する

労働組合法上の「労働者」から「使用者」に対する団体交渉の要求を正当な理由なく拒否することは、不当労働行為として、労働組合法違反となります。

すなわち、会社はかかる要求に対して誠実交渉義務を負います。
ただ、団体交渉への対応は会社への負担が大きいものです。

そのため、業務委託(請負)契約の受託者から団体交渉を求められた事案においては、当該受託者の労働者性を吟味し、法的な対応義務の存否を慎重に判断することが肝要です。

団体交渉の議題も判断要素になる

団体交渉の議題には、法律上、使用者に対応義務がある「義務的団体交渉事項」と、対応が任意に留まる「任意的団体交渉事項」の2種類がありますが、両者の区別は、実務上必ずしも明確ではないケースがございます。

そのため、任意的団体交渉事項であるとの自己判断で交渉を拒否してしまうと、後日不当労働行為として違法と判断されるリスクが生じるおそれがあります。

請負企業からの申入れには直接の雇用者と連携する

元請企業が下請企業の従業員から団体交渉を申し入れられた場合、直接の雇用主である下請企業との連携が不可欠です。

従業員の労働条件を決定する権限はあくまで下請企業にあるため、事前に正確な事実関係をすり合わせておかないと、下請企業の就業規則と矛盾する内容で合意してしまうリスクがあるためです。

業務委託(請負)契約における団体交渉でお悩みなら弁護士にご相談下さい。

原則として、会社が業務委託(請負)の受託者から団体交渉を求められても、それに応じる義務はありません。しかし、実質的な働き方が雇用契約と変わらないと判断される場合には、例外的に誠実交渉義務が生じるケースもあります。

したがって、団体交渉に応じるべきか否かは、会社が労働組合法上の「使用者」に該当するか、受託者が同法上の「労働者」にあたるか、そして要求された議題が「義務的団交事項」であるかなど、個別の実態を総合的に考慮して判断する必要があります。

これらの判断には高度な法的知識と専門性が不可欠です。業務委託や請負の方から団体交渉を申し入れられ、対応にお悩みの際は、労使関係の経験が豊富な弁護士までご相談ください。

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大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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