
監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
相続税には計算方法が存在するものの、相続放棄をした場合に、相続税の計算に影響を及ぼすことがあります。
本記事では、相続放棄が相続税の各計算項目に影響を及ぼすかどうかについて解説しています。
目次
相続放棄したら相続税はかからない?
相続税は相続人に対して課税される税金です。
相続放棄をした場合、相続人ではなかったものとされますので、生命保険金や死亡退職金等のみなし相続財産を受給した場合等を除き、原則として相続税は課税されません。
相続放棄しても基礎控除額には影響しない
遺産に係る基礎控除額の計算式は以下のとおりです。
遺産に係る基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
相続放棄をした者は初めから相続人ではなかったものとみなされるため、上記計算式の法定相続人としてカウントされないようにも思えます。
しかし、相続放棄をした者は放棄をしなかったものとみなされるため(相続税法15条2項)、法定相続人にカウントされます。
したがって、放棄の有無によって基礎控除額には影響しないことになります。
相続放棄しなかった人の相続税額には影響あり
もっとも、放棄の有無は実際の相続税額に対しては影響を及ぼします。
相続税額は、最終的に得た遺産等の額によって影響されます。
そして、特定の相続人が相続放棄をした場合、他の相続人が放棄をした相続人が取得するはずであった遺産を取得することになります。
その結果、最終的に得た遺産が増額し、それに伴い相続税額が増加する可能性があります。
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【ケース別】相続放棄があった場合の相続税の計算
みなし相続財産に対する非課税枠
みなし相続財産とは、本来は相続財産ではないが、被相続人の死亡を原因として、相続人が受け取った財産をいいます
。例えば、生命保険金や死亡退職金がこれに該当します。
相続人が生命保険金や死亡退職金を受け取ったときは、それぞれについて次の計算式で求めた金額が非課税となります。
非課税限度額=500万円×法定相続人の数
放棄した者もこの計算式の法定相続人の数に含まれます。
そして、各人の非課税金額は、上記の非課税限度額を次の計算式で按分した金額となります。
各人の非課税金額=非課税限度額×その相続人が受け取った死亡保険金等÷前相続人が受け取った死亡保険金等
相続を放棄した人は相続人ではないため(民法939条)、相続を放棄した人が受け取った保険金等については、非課税金額の適用はありません。
配偶者の税額軽減
配偶者が取得した遺産等が、1億6000万円、配偶者の法定相続分のいずれか多い金額までは相続税が課されない制度を、配偶者の税額軽減の制度といいます。
放棄した者は放棄により相続人でなかったものとみなされますが、配偶者ではあるため、配偶者が相続放棄をしたとしても税額軽減の適用を受けることは可能です。
未成年者控除・障害者控除
未成年者控除の制度とは、遺産等を取得した者が未成年者である場合に(18歳-相続開始時の年齢)×10万円の税額控除を受けることができる制度です。障害者控除の制度とは、遺産等を取得した者が障害者である場合に(85歳-相続開始時の年齢)×原則10万円の税額控除を受けることができる制度です。 いずれの制度も相続人かどうかは関係がないため、放棄の有無によって控除の可否への影響はありません。
生前贈与の加算対象
相続人が相続開始前7年以内に被相続人から贈与を受けた場合、その贈与財産は相続財産に加算されます。
もっとも、その贈与財産を受けた者が放棄することで、一切遺産及びみなし相続財産を受け取っていない場合、生前贈与された財産は加算されません。
債務控除
被相続人の債務を承継した場合は、承継した債務を課税価格から控除することができます。
相続放棄をした場合は、初めから相続しなかったものとみなされるため、債務を承継しないことになります。
したがって、控除する債務が存在しないことになるため、課税価格から債務を控除することはできません。
2割加算
被相続人の配偶者及び1親等の血族以外(例、兄弟姉妹、孫養子)の人が、相続または遺贈によって財産を取得した場合には、算出税額の2割が加算される制度です。
相続税の加算額=算出税額×20%
相続放棄した上記の人が生命保険金等のみなし相続財産を取得した場合、放棄をしたとしても加算要件を満たすことに変わりはないため、相続税の2割加算のルールは適用されます。
他方で、被相続人の配偶者及び1親等の血族の人がみなし相続財産を取得した場合、放棄をしたとしても加算要件を満たさないことに変わりはないため、相続税の2割加算のルールは適用されません。
相続税が発生する場合はトラブル回避のためにもご相談ください
相続税の計算にあたっては最終的な遺産等の取得額を明らかにしなければならない場合があります。
そのため、相続問題は相続税の問題と密接に関連します。
当法人は相続税に精通する税理士と連携をとってワンストップで相続税や遺産分割等の相続問題を解決することが可能です。
相続税が発生するトラブルについては、遺産分割等の相続問題のトラブルとあわせて当法人にご相談ください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)