労務

法改正により清算期間の上限が3カ月に延長された後の実務上の留意点

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • フレックスタイム

2019年4月1日より施行された「働き方改革関連法」によって、フレックスタイム制の清算期間に関する制度が変更になりました。フレックスタイム制は、一定期間(清算期間)の中で労働者に始業時間、終業時間、労働時間の自由を与えることにより、労働者の自由な働き方を推進するものです。今回は、上記の働き方改革関連法の中で、フレックスタイム制における清算期間についてご説明いたします。

目次

法改正によりフレックスタイム制の清算期間の上限が3カ月に延長

フレックスタイム制の清算期間とは

フレックスタイム制の「清算期間」とは、フレックスタイム制を導入する中で、労働者が働くべき時間を定める期間のことを指します。

清算期間が延長されることのメリット

上記の働き方改革関連法による労働基準法の改正により、フレックスタイム制の清算期間の上限が1か月から3か月に延長されました。清算期間が1か月から最長3か月に延長されたことで、労働者は長期的な期間の中で、労働時間の調整を図ることが可能となりました。例えば、繁忙期と閑散期がある業界では、繁忙期の月に労働時間を長くし、閑散期には短くするといった月をまたいだ柔軟な対応も行うことが可能となります。

清算期間の上限を延長する場合の実務上の留意点

労使協定の届出義務について

1か月を超えた期間で清算期間を設定する場合には、清算期間が1か月を超えることを定めた労使協定を締結する必要があり、当該労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。
この届出を怠った場合には、30万円以下の罰金が課されるおそれがあります。

清算期間が延長された場合でも時間外労働は発生

フレックスタイム制を採用し、労働者に自由な労働時間の設定を委ねていたとしても、労働者の実労働時間が所定労働時間を超えている場合には、時間外労働が発生します。フレックスタイム制を採用し、労働者に自由な労働時間の設定を委ねていたとしても、労働者の実労働時間が所定労働時間を超えている場合には、時間外労働が発生します。

清算期間が1カ月を超える場合の時間外労働

清算期間が1か月を超える場合、総労働時間と実労働時間の過不足については、月をまたいで処理を行うことが可能となります。総労働時間より実労働時間が長かったときにも下記①②の状況をどちらも満たす場合には、時間外労働に該当しません。

①複数月の労働時間の週平均が40時間以内であること
②1か月ごとに区分した期間の労働時間が平均50時間以内であること

例えば、労働時間の1か月目が週平均50時間であり、かつ、2が月目と3か月目が週平均30時間であれば、3か月の平均が約37時間となるため時間外労働には当たりません。逆に、清算期間全体の労働時間が週平均40時間を超えた場合や1ヶ月ごとに区分した期間の労働時間が週平均50時間を超えた場合には、超過した部分が時間外労働に該当します。

フレックスタイム制に関する裁判例

事件の概要

経理部長の立場にあった原告が、従業員の労働時間についてフレックスタイム制を採用していた被告会社に対して時間外労働等の割増賃金を求めた事案です。被告会社としては、原告が管理監督者(労働基準法41条2号)に該当するため、フレックスタイム制が適用されず、時間外労働の割増賃金は発生しないと主張しました。

裁判所の判断(東京地裁令和3年7月14日判決)

裁判所は、労働基準法41条2号の「管理監督者」に該当するかについて、①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有しているか、②自己の労働時間について裁量を有しているか、③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を受けているといった視点から個別具体的な検討を行い、これらを総合的に判断するのが相当であると判示しました。その上で、本件における原告は、経営者と一体的な立場にある者ということはできないし、自己の労働時間について裁量があったともいえないのであるから管理監督者に該当しないと判示し、原告による割増賃金の請求を認めました。

ポイント・解説

労働基準法41条2号の「管理監督者」に該当した場合、会社の労働時間制は適用除外となるため、フレックス制度の対象からも外れることになります。もっとも、上記裁判例のとおり、「管理監督者」に該当するといためには、①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有しているか、②自己の労働時間について裁量を有しているか、③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を受けているといった視点から判断され、「管理監督者」の範囲は狭いといえます。そのため、フレックスタイム制を導入するに際しても、管理監督者の該当範囲を意識し、運用する必要があるのでご注意ください。

法定労働時間の総枠計算の特例について

清算期間における曜日の巡りや労働日の設定によっては、法定労働時間の総枠を超えるケースが出てきます。たとえば、月の暦日が30日であり、所定労働日が 22日あるとき、1日8時間労働したとすると 合計の労働時間は、176時間(8時間×22日)となり、法定労働時間の総枠(40時間×30日/7日=171.4時間)を超えてしまいます。

このように法定労働時間を働いたにもかかわらず時間外労働が発生するのは不合理なことから、このような場合、以下の条件をすべて満たせば、法定労働時間の総枠を超えていても、当該時間に達するまでは時間外労働として取り扱われないという特例が認められています(労基法第32条の3第3項)。

その特例とは、①週の所定労働日数が5日(完全週休2日)の労働者を対象に、②「精算期間内の所定労働日数×8時間」を労働時間の限度とする内容の労使協定を締結することで、③「精算期間内の所定労働日数×8時間」をフレックスタイム制の法定労働時間の総枠とすることができるというものです。

清算期間の延長に関するQ&A

清算期間が3カ月に延長された場合でも、時間外労働の時間数は1カ月ごとに把握すべきでしょうか?

清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制においては、清算期間を1か月ごとに区分した期間を平均し、1週間当たりの労働時間が50時間を超えた時間は、時間外労働時間となり割増賃金の支払いが必要となります。先に述べた「週平均40時間」の規制は清算期間のトータルで考えるのに対し、「週平均50時間」の規制は、清算期間を1ヶ月ごとに区分した期間で考えます。そのため、清算期間が3か月に延長された場合であっても、時間外労働の時間数を1か月ごとに把握することが必要となります。

清算期間が1カ月を超える場合に労使協定を届け出ていないとどうなりますか?

フレックスタイム制において、清算期間が1か月を超える場合には、所轄労働基準監督署に届出を行う必要があります。 届出を行わないと違反となり、罰則として30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

時間外労働の上限についても3カ月単位で考えるべきでしょうか?

働き方改革関連法により、時間外労働の上限が設けられました。フレックスタイム制を導入した場合にも時間外労働の上限規制の適用を受けることになります。そして、上限規制においては、1か月単位での上限も設けられているため、フレックスタイム制を導入するにあたっても、上限規制に反しないか注意すべきです。

3か月の清算期間の中で繁忙月には多めに働いてもらうなど、労働時間を調整することは可能ですか?

フレックスタイム制は、労働者に清算期間の中で、労働時間の調整を図ることが可能となり、繁忙期と閑散期がある業界では、繁忙期の月に労働時間を長くし、閑散期には短くするといった月をまたいだ柔軟な対応も行うことが可能となります。

3カ月ごとの清算期間における起算日は、会社が設定するのでしょうか?

フレックスタイム制を導入する際には、労使間の話し合い(労使協定)によって、清算期間や起算日を定める必要があります。

フレックスタイム制の清算期間を、1カ月半や2カ月に設定することは可能ですか?

フレックスタイム制の清算期間の上限が1か月から3か月に延長されました。そして、清算期間については、労使間の話し合い(労使協定)によって、設定することができ、1か月半や2か月に設定することも可能です。

3カ月の清算期間内で発生した割増賃金は、どのタイミングで支払うのでしょうか?

賃金については、労働基準法24条の規定から当月分を全額支払わなければなりません。そのため、清算期間中の総労働時間に超過があった場合でも、超過した分の労働時間を次の清算期間に繰り越すということはできず、割増賃金については当月分を毎月支払う必要があります。3か月の清算期間を定めた場合、時間外労働の清算は通常、清算期間が終了してから行いますが、時間外労働が月50時間を超えた部分については、清算期間を待たずにその月に支払う必要があるので注意が必要です。

中途入社で、3カ月の清算期間よりも労働期間が短い場合はどうしたらいいですか?

清算期間の途中で入社する労働者については、その期間の法定労働時間の総枠を「40時間×在籍期間中の歴日数÷7」で計算して対応することができます。

清算期間が1カ月を超える場合、就業規則への規定は必要ですか?

始業・終業の時刻と休憩時間については、就業規則に必ず記載しなければならない事項であり、「絶対的必要記載事項」と言われています。そのため、フレックスタイム制を導入するためには、就業規則への規定が必要となります。

特例措置対象事業場で清算期間が1カ月を超える場合、週平均44時間を超えなければ時間外労働にはならないのでしょうか?

通常40時間と定められている法定労働時間ですが、特例措置対象事業場(常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業)においては、法定労働時間は44時間とされています。ただし、フレックスタイム制の清算期間が1ヶ月を超える場合には、特例措置対象事業場であっても、週平均40時間を超えて労働させるときは36協定の締結・届出と割増賃金の支払いが必要です。

法改正に伴い、清算期間の延長をお考えなら、フレックスタイム制度に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

上述したようにフレックスタイム制は、労働者が清算期間の中で、労働時間の調整を図ることが可能となり、労働者にとってもメリットを有する制度であり、労働者に自由をあたることによって、生産性の向上を図ることができ、会社にとってもメリットがあります。他方で、フレックスタイム制の導入にあたっては、就業規則の記載や労使協定、労働基準監督署への届出等の複雑な手続きが必要であり、導入するにあたって専門的な知識が必要となります。弊所には、労働法に精通した弁護士が多数所属しておりますので、フレックスタイム制を導入・運用していく際にはぜひご相談ください。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
大阪弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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