労務

パワハラの就業規則への規定について|パワハラの程度と懲戒処分の相当性

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • パワハラ
  • 就業規則
  • 懲戒処分

パワハラ(パワーハラスメント)行為を行ったとして懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒処分の根拠規定を置くことが必要です。

このページでは、パワハラ対策として就業規則にどのような規定を置けばよいか、懲戒処分の相当性はどのように判断されるか、などについて解説しています。
ぜひ参考になさってください。

パワハラで懲戒処分を行うには就業規則の規定が必要

使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要します(最二小判平成15.10.10労判861号5頁 フジ興産事件)。

労働基準法89条9号が、懲戒処分(すなわち制裁)の定めをする場合に、懲戒処分の種類及び程度に関する事項について就業規則に記載することを要求しているのも、上記判例の立場に整合するものといえます。

懲戒処分を下すための法的要件とは?

懲戒処分を下すためには、懲戒処分の種類及び程度に関する事項が就業規則に記載されているだけではなく、その内容が、適用を受ける事業場の労働者に周知されていることが必要です。

「周知」の方法は、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、若しくは備え付けること、又は、書面を労働者に交付することなどですが(労働基準法106条1項、労働基準法施行規則52条の2)、法令上列挙された方法に限定されておらず、労働者が知ろうと思えば知りうる状態におかれていたという実質的な周知で足りるとされています。
労働者が実際にその内容を知っているかどうかは問われません。

そして、問題となる労働者の行為が就業規則上の懲戒事由に該当することが、懲戒処分を下す前提となります。

パワハラの程度と懲戒処分の相当性について

労働契約法15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定めています。

すなわち、問題となる労働者の行為が就業規則上の懲戒事由に該当するとしても、当該行為の性質・態様や非処分者の職務歴等に照らして懲戒手段が重すぎる場合には、当該懲戒処分は、相当性を欠き、懲戒権濫用として無効になります。

犯罪行為レベル(刑法)のパワハラの場合

暴行、脅迫等の犯罪に当たるレベルのパワハラの場合には、比較的重い懲戒手段が認められます。

しかし、犯罪に当たるからといって安易に懲戒解雇にしてはいけません。
当該行為の態様や結果の重大性に加え、日頃の勤務状況等、本人に有利な事情も考慮したうえで、懲戒解雇に相当するか否かを慎重に検討しなければなりません。

不法行為レベル(民法)のパワハラの場合

犯罪には当たらないとしても、パワハラが、被害者の人格権を侵害するものとして不法行為を構成する場合があります。

厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」では、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであることがパワハラの要素とされており、この判断においては、当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を総合的に考慮することが適当とされています。

パワハラに対していかなる懲戒処分を下すのが相当かについても、これらの事情を考慮したうえで判断すべきです。

職場環境を害するレベルのパワハラの場合

刑法上の犯罪や民法上の不法行為には当たらないとしても、当該パワハラが就業規則上の懲戒事由に該当するのであれば、懲戒処分を行うこと自体は可能です。

いかなる懲戒処分が相当かについては、上記と同様、当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を総合的に考慮したうえで、慎重に判断すべきです。

就業規則の規定があればパワハラ社員を懲戒解雇にできる?

上記2で述べたとおり、問題となる労働者の行為が就業規則上の懲戒事由に該当するとしても、相当性が認められなければ、その懲戒処分は無効となります。

解雇は最も重い懲戒処分であるため、解雇を必要とするよほど重大な事情がなければ、パワハラ社員を有効に懲戒解雇することはできません。

パワハラでの解雇の相当性はどう判断されるのか?

解雇は、従業員を企業外に放逐する重大な処分であるため、その有効性は厳格に判断されます。

当該パワハラの態様や結果の重大性に加え、日頃の勤務状況や会社への貢献度、過去の同種事例との均衡、過去にも懲戒処分を受けたかどうかなども考慮したうえで、解雇が相当かどうか判断されます。

パワハラを理由とする懲戒解雇が有効とされた裁判例

豊中市不動産事業協同組合事件(大阪地判平成19.8.30労判957号65頁)

事件の概要

事業協同組合(被告)に事務局長として勤務していた原告は、事務職員に対して、侮辱的な内容を大声で怒鳴り続けた上、暴行を加え加療7日の傷害を負わせたことを理由に、諭旨免職処分(期限までに退職届が提出されなかった場合は、懲戒解雇とする処分)となり、退職届を提出しなかったために、懲戒解雇となりました。

裁判では、被告による懲戒解雇の有効性が問題となりました。

裁判所の判断

裁判所は、本事件における原告の言動、事務職員の被害状況、原告の当時の職責、本事件までの原告の同僚に対する言動、本事件後の被告に対する言動等に照らすと、原告が、被告の事務職員として3年以上精勤して、職務熱心で、事務処理能力が高いと評価されていたこと、本事件までに懲戒処分を受けていないことなどを考慮しても、原告に対して諭旨退職の懲戒処分をしたことが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くものとは認められないとして、懲戒解雇を有効と判断しました。

ポイント・解説

裁判所は、日頃の勤務状況や会社での評価、過去に懲戒歴がないことといった、原告に有利な事情を考慮したうえで、懲戒処分の相当性を認め、懲戒解雇は有効と判断しました。

処分の相当性判断は、一連の事情を総合して判断することになりますが、有利な事情を考慮してもなお懲戒解雇が有効であると判断された事案として参考になります。

パワハラの懲戒処分に関する就業規則の規定例

厚生労働省が公表している「モデル就業規則」(https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf)のうち、パワハラの懲戒処分に関する部分の規定を抜粋してご紹介します。

(職場のパワーハラスメントの禁止)
第12条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

(懲戒の事由)
第68条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
⑤ ……第12条……に違反したとき。
2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。
ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第53条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
⑨ ……第12条……に違反し、その情状が悪質と認められるとき。

パワハラ対策や就業規則の整備でお困りの際は、弁護士法人ALGまでお気軽にご相談下さい。

パワハラを行った社員には適切な懲戒処分を下すことが重要ですが、懲戒処分は相当性を有するものでなければならず、会社側には慎重な検討が求められます。

パワハラ対策や就業規則の整備でお困りの際は、就業規則や懲戒処分に関して専門知識を有する弁護士へご相談ください。

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監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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