労務

近時の法改正制度解説 改正労働契約法(無期転換対応)

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • 労働契約法

近年、「働き方改革」を含めた法改正による労働契約法の変化が目まぐるしいです。
無期転換ルールの対応などに円滑に対応するためには、就業規則等の社内の制度の整備が必要不可欠です。

しかし、これらに関する知見を有する企業は多くないかと思います。
本記事では、無期転換に対応するための知識を記載しております。 パートタイム・有期雇用労働法改正について詳しく見る

有期労働契約に関する労働契約法の改正

改正労働契約法の施行期日

改正労働契約法の施行期日は、2024年(令和6年)4月1日となります。

改正のポイントと3つの新たなルール

改正法のポイントは、労働条件を明示する事項が追加されることです。
具体的には、新たに以下の3つのルールが加わります。

①労働契約の締結時と有期労働契約の更新時に就業場所・業務の変更の範囲を書面による明示すること
②有期労働契約の締結時と更新時に、更新上限の有無と内容(更新上限を新設・短縮しようとする場合、その理由をあらかじめ説明すること)を書面により明示すること
③無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時に無期転換申込機会を書面により明示すること、無期転換後の労働条件を書面により明示(無期転換後の労働条件を決定するにあたり、他の正社員等とのバランスを考慮した事項の説明に努めること)すること

というルールが加わります

無期労働契約への転換

無期労働契約への転換とは、同じ使用者のもとで有期労働契約が更新され通算期間が5年を超える場合に、当該労働者が無期転換申込すれば、使用者がその申込みを承諾したものとみなされ、期間の定めのない労働契約が成立するというものです。

無期転換申込権が発生する要件とは?

⓵有期労働契約が5年を超えて更新されたこと
②契約社員やアルバイトなどの有期契約労働者の申し込みがあったこと

が必要です。

有期労働契約の通算期間の考え方

有期労働契約と次の有期労働契約との間に契約が存在しない期間(空白期間)が6か月以上続いたときは、通算がリセット(クーリング期間)されます。
つまり、契約がない期間が6か月以上あるときは、その空白期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含まないということです。

他方、空白期間前の通算契約期間が1年未満の場合は、クーリング期間はその2分の1の期間を基礎として以下の通りになります。

空白期間前の通算契約期間 空白期間
2か月以下 1か月以上
2か月以上から4か月以下 2か月以上
4か月以上から6か月以上 3か月以上
6か月以上から8か月以下 4か月以上
8か月以上から10か月以上 5か月以上
10か月以上 6か月以上

高年齢者を雇用している場合の無期転換

原則として、同じ使用者のもとで有期労働契約が更新され通算期間が5年を超える場合には、無期転換申込権が発生します。

もっとも、①適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けた事業主のもとで、②定年に達し引き続いて同一事業主に雇用される高齢者の場合、無期転換申込権は発生しません。
なお、①「事業主」について、高齢者雇用安定法に規定する特殊関係事業主に定年後引き続いて雇用される場合はその特殊関係事業主(Ex.グループ会社)になります。

「雇止め法理」の法定化

雇止め法理とは、労働者保護の観点から、一定の場合、雇止めを無効にするというものです。
労働契約法19条において明文化されました。

雇止め法理が適用される要件とは?

①過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
②労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的理由があると認められるもの

③①②もいずれかに当たる場合で、使用者が雇止めすることが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、雇止めができません。
有期労働契約が従前と同一の労働条件で更新されます。

不合理な労働条件の禁止

平成24年の改正により旧労働契約法20条には、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、 「期間の定めがあること」を理由とする不合理な待遇の相違を禁止する規定が新設されました。

もっとも、平成30年改正により、旧労契法20条が削除され、有期契約労働者の労働条件の不合理な相違の禁止が短時間・有期雇用労働法8条に規定されました。

「不合理」の判断基準とは?

短時間・有期雇用労働法8条違反の要件は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、待遇について「相違」があり、その「相違」が「不合理と認められる」ことです。

「相違」の「不合理」性は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、問題となる個々の待遇ごとに判断されます。

例えば、通勤手当、食堂の利用、安全管理などの相違については、上記要素を考慮して、原則として、「不合理」と認められます。

無期転換に伴う労働条件の変更と注意点

無期転換をした場合でも、労働条件を不利益に変更するなら、無期転換した労働者の同意が必要です。
また、無期労働契約者は労働条件の変更に応じる義務はないため、上記同意が得られないことを理由に解雇などをすることはできません。

無期転換の申し込みには必ず応じなければならない?

必ず応じなければなりません。
労働者が無期転換の申し込みを使用者に対して行えば、使用者はそれを承諾したものとみなされるからです。

労働者本人が無期転換申込権を放棄した場合は?

労働者本人が無期転換申込権を放棄すること自体はできます。
もっとも、放棄することが自由意思に基づくものであることが認められる客観的に合理的な理由が必要になります。

また、原則として、無期転換申込権が発生する有期労働契約以前に、有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させることはできません。

派遣社員を受け入れている場合の無期転換はどうなるのか?

派遣社員であっても無期転換ルールは適用されることになります。
もっとも、無期転換の申入れ先は派遣元になります。

無期転換ルール導入に伴い企業に求められる対応

下記3つの点に注意すべきです。

・会社の説明義務

2024年4月1日から、
①労働契約の締結時と有期労働契約の更新時に就業場所・業務の変更の範囲を書面により明示すること、②有期労働契約の締結時と更新時に、更新上限の有無と内容(更新上限を新設・短縮しようとする場合、その理由をあらかじめ説明すること)を書面により明示すること、③無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時に無期転換申込機会を書面により明示すること、無期転換後の労働条件を書面により明示(無期転換後の労働条件を決定するにあたり、他の正社員等とのバランスを考慮した事項の説明に努めること)することが企業に求められます。

・一定の場合には、雇止めはできないこと

Ⓐ過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
Ⓑ労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的理由があると認められるもの
Ⓒ ⒶⒷもいずれかに当たる場合で、使用者が雇止めすることが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、雇止めができません。
企業の対策として、企業側が契約にあらかじめ更新の限度を設けたり、最後の更新の際に次回は更新しない旨の不更新条項を入れたりする場合があります。

しかし、上記定めがあったとしてもそれだけで雇止め法理の適用がなくなるわけではないほかの諸事情も考慮して上記法理が適用されるかが判断されます。
そのため、上記対策をしても、雇止めできない場合があります。

・無期転換申込に基づく不利益取扱いはできないこと

無期転換申込を行ったことを理由として、無期転換申込権の行使を制限したり、解雇やその他不利益取扱いすることはできません。そのようなことをすれば、私法上、違法性を帯びるおそれがあります。

現状把握と方針の策定

・現状の把握

自社の社員区分や社員区分の勤務実態を把握します。
これに加えて、就業規則等の有期契約労働者の定義や無期転換申込権の発生時期を把握すべきです。

・方針の策定

無期転換制度にとどまるか、正社員転換制度も導入するか検討しましょう。
例えば、人材の定着を目標にするなら、5年より早く無期転換できるような制度を設計することが考えられます。

また、人材の定着だけでなく、モチベーションアップ等も目指すなら、有期契約労働者を無期契約労働者にするのではなく、正社員等に転換できるような制度を設計することも考えられます。

無期転換後に適用する就業規則の整備

無期転換権を行使しても、当該労働者の労働条件は従来の労働条件によるとされます。
もっとも、就業規則上、無期契約労働者と正社員を区別しておらず、正社員の労働条件が無期転換契約労働者の労働条件を上回る場合、当該労働者の労働条件は正社員の労働条件になります。
そのため、無期契約労働者と正社員を区別する内容を記載した就業規則にすべきです。

キャリアアップ助成金との関係について

キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者などの非正規雇用労働者の企業内のキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善取り組みを実施した事業主に対して助成する制度です。

この助成金は、返済する必要のないお金ですので、企業にとって利用しやすいお金だと思います。
この制度により、企業側が、非正規雇用労働者が正社員になりやすい制度を設立したり、非正規雇用者に社会保険を受けやすくすることができます。

労働契約法の改正で企業が対応すべき点について、弁護士が適切なアドバイスをいたします。

改正された労働法だけでなく、従前の労働法も専門的で分かりづらいところが多々あると思います。
また、労働関係法令は、近年、改正の動きがさまざまでありますので、企業側がこれらの対応するのが難しいと考えられます。
そこで、専門家である弁護士が、労働契約法の改正で企業が対応すべき点について、適切なアドバイスをいたします。

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大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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